例年であれば年末はどこの事務所でも夜通しパトロールに出ているところ、今年は切島くんと瀬呂くんが出勤を申し出てくれた。お陰で爆豪くんと2人きり、のんびりと年越しを迎えることとなった。
暖かくした部屋の中、コンロで作る鍋を囲みながら、私たちはバトっている。誤植ではない。確かに戦っているのだから。
「あっ!そのお肉私が食べようとしてたのに!」
「ハッ、遅ェんだよバカが!悔しかったらもう1パック出して来いや」
「ぐぬぬ…。じゃあ爆豪くん野菜足しといてよ!」
「はぁ?命令してんじゃねぇぞブス」
そう言いながらも、ちゃんと野菜を入れておいてくれるのが爆豪くんだ。ただの鍋奉行なのかもしれないけれど。
冷蔵庫から薄切り肉のパックを取り出して、ついでにお酒の缶も二つほど拾う。いつか飲もうと思って、暫く前から置き去りにされていた分だ。今なら飲んでもいいだろう。
テーブルに戻ると、文句を言っていた爆豪くんはちゃんと野菜を補充してくれていて、更に私の側に好きな白滝を置いてくれている。そういうところが好きになっちゃうんだよ。
「オイ、何酒持って来とんだ」
「いいでしょ別に。今年もお疲れ様でした~ってね」
「チッ、片方寄越せや」
「…もしかして私、二つとも飲むと思われてた?」
「てめぇの酒癖ならそうなンだろ。はよ出せ」
私の手から缶を引ったくって、更に肉を足せと催促してくるパートナーにはもう大分慣れてしまった。言われるがまま、席について鍋に肉を投入した。
冷凍庫にはまだお肉が積まれている。先日、爆豪くんのお母さん、光己さんから送られて来たのだ。2人でいっぱい食べてね、と添えられたメッセージにくすぐったさを感じる。
「お肉おいしいねぇ。光己さんにお礼に何送ろうか」
「いらんだろ別に」
「えぇ、食べたからにはお礼しないと」
「…もう他人じゃねぇんだから気ィ使うなっつっとんだ」
小皿に伸ばしかけた箸が止まる。指にはまった指輪が、今こそと存在を訴えかけている気がした。そうか、光己さんからしたらもう娘みたいなものなのか。
最初に爆豪くんの家に行った時にも言われたなぁ、「娘が欲しかった」って。今となっては現実になってしまったわけで、人生というものは本当にわからないものだ。
ぺんぺんと空になったトレーを箸でつつきながら、爆豪くんはどうでもいいように言い放つ。
「こんなモン、マジで次々送られて来ンぞ。キリねぇだろ」
「そっかぁ…。じゃあ、お礼の電話だけしとくね」
「そうしろ」
「…あ!?爆豪くんまたお肉拾ってない!?」
「うっせー、早いもん勝ちだ」
そうやって、騒々しい夕飯は過ぎていく。結局、もう一度冷蔵庫まで行かされる羽目になったのだが、デザートも食べていいとの許しが出たので、これはノーカンにすることにした。
テレビは特番だらけで、さっきから爆豪くんがつまんねぇとチャンネルを変え続けるので、一つとしてまともに見ることができない。まぁそちらはいい。私も大して興味がないのだから。
鍋の中身は既になく、火を消したコンロは静かにテーブルに鎮座したまま。二つだけ持ってきた酒缶が三つになり、四つになり、どちらともなく消費されていくことに口出しされることもなかった。だから調子に乗って、パカパカと開けてしまい、今に至る。
「ンふふ、ばくごーくん、顔あかいよぉ」
「っせ、シネ酔っ払い」
「そういうとこ、めっちゃすき」
「…俺はてめぇのそういうところがマジで腹立つ」
「相思相愛だねぇ、んふふ」
「脳みそに何詰まってたらンなクソみてぇな思考回路になんだよ。すっからかんか?ア?」
「違うよぉ。あのね、爆豪くん、私のこと言う時、すごく見つめて来るの。知ってた?」
私がにんまり笑ってそう言うと、爆豪くんは途端に目を逸らしてしまった。それから「シネ」「カス」「クソストーカー」の三段活用。でもねぇ、真っ赤になった耳は隠れてないから、照れ隠しだってバレバレなんだよ。
ふとスマホに目をやれば、日付はとっくに変わっていた。一月一日、元旦だ。クラスメイトや知り合いから、いくつもメッセージが来ているだろう。その証拠に、画面は通知で埋まっている。
「爆豪くん、」
「あ?」
「今年もよろしくね」
雄英で出会ってから、本当に色々なことがあった。卒業して、ヒーローになって、たくさんの人助けをして。正直、今無事でいられるのも不思議なようなことだって何度かあったのだ。それでもこうして2人で新年を迎えて。来年もそうであってほしい。来年より、その先もずっと。
爆豪くんは返事をしてくれなかったけれど、生意気だとでも言うように私の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。突然のことに咄嗟に目をつぶってしまう。あらかた引っ掻き回した手がそのままするすると後頭部へと降りていき、引き寄せられたと気づいた時にはもう唇は触れ合っていた。
1/10のWeb夢オンリーで公開したお話(2021/1/16) ▼ TOP