「友達」の定義を問う

 5(爆豪視点) |雄英1年・年明け

「爆豪、何があった」
何って、ンなこと俺の方が聞きてぇわ。はまだ俺の横で蹲ったまま。震えている。かける言葉なんて分からなかった。
立ち去ったあの男、あいつが何かしやがったのか。そう思って追いかけようとしたのに、コートを引く手を振り解くことができなかった。強く握りすぎて白くなった手は、ずっと震えている。
…ンだよ、いつまでも泣いてんじゃねぇ。
両手に2人分のビニール袋をぶら下げながら、先生について寮へと戻る。ミッドナイトに眠らされたは、相澤に背負われていて表情は見えない。見えなくて少しだけホッとしたなんて、思いたくはなかった。
共有スペースに居たクラスメイトにのことを聞かれたが、知らん間に襲われたなんて言えるはずもない。相澤ンとこ、とだけ言うのが精一杯だった。




「おい甘党」
「甘党って、俺のことか?」
「他に誰がいンだよ」
「いや、いいけどよ…何だ?」
「プリン作る道具。一式貸せ」
「……………………おう?」
他のクラスメイトの部屋など滅多に尋ねることはない。けれど、どの部屋に誰がいるのかはちゃんと覚えている。目的の部屋に直行すると、部屋の主の砂藤は大層驚いていた。
差し出された道具を引ったくって、誰もいないキッチンへと赴く。…あいつのためじゃねぇわ。俺が落ち着かねンだよ。
いつぞや、あいつがコンビニでプリンを買ってたことを思い出した。女なんてすぐ甘味をくれてやりゃあ立ち直ンだろ。そんな思考を持ってしまった時点でアホかと投げ捨てたくなったが、一緒に居た手前、ざらざらとした罪悪感を感じていた。泣いている女を思い出しては、ムカムカとした憤りが噴出しそうだった。
ネットで見つけたレシピを元に作ったが、初めてにしちゃあ上出来だ。並んだプリンを冷蔵庫にしまいながら、作りすぎたと思ったが後の祭りだった。仕方ない、処分はクラスメイトに任せるか。ドアに[勝手に食え]という貼り紙をして、その日は終了した。




すぐ立ち直るだろうという俺の予想に反して、翌日の教室にあいつは居なかった。相澤が昨夜個性事故に遭って今日は休みだと皆に伝えている。昨夜最後に一緒に居たのは俺だ。そうすると、視線は自然に俺に集中する。なぁ爆豪。そんな尋問の予感を感じて、先んじて「うるせぇ!」と牽制した。
ふざけんな、どんなクソ個性にかかっとんだ。いつ、どこで。俺の見ていない間にか。まだ解てねぇって、時限制じゃねぇんかよ。そんな悪態が頭の中を巡った。そういえば今日は背後からの視線を感じない。自らストーカーと名乗る女の不在が、俺の居心地を悪くするなど、どういう了見だ、クソ。無駄に作ってしまったプリンが、本当に無駄になるではないか。
放課後、寮に戻れば女子どもが冷蔵庫の前で屯していた。どうやらあのプリンを見つけたらしい。俺が自発的に自作だと明言することはなく、しかし砂藤に聞いたのか、俺に食べてもいいかと聞いてくる。マジでうぜぇ。
好きにしろ。それだけ言い捨ててエレベーターのボタンを押す。キッチンから「のぶん、誰も食べないように名前書いとこ」なんて声が聞こえてきた。…好きにしろよ。




自室に篭って予習に励もうとも思ったが、思うようには捗らなかった。クソ、全部あいつのせいだ。あいつが変な男に会うからだ。
そんな苛立ちを発散するべく、夜に本人を呼び出す。罪悪感、後ろめたさ、ないわけではない。けれど苛立ちも収まらないからそうするしかなかった。のろのろと、しかし確かにやってきた女にまた苛立ちが募る。まず怯んでいるような表情が気にくわねぇ。それに、俺が呼び出してんだぞ。こっち見ろや。
怒りのままに言葉をぶつければ、いつのまにかの方もいつものように言い返してきた。真っ直ぐに俺の方を見て。何だよ、出来るなら最初からそうしろや。俺がわざわざ呼び出したのがバカみてぇだろうが。
最もキレたのはあの言葉だ。関係ない、と言われて頭に血が上った。関係ないわけねぇだろ。襲われたのは俺が見ていない間、その後は引き止められたから仕方なくとはいえ、ヴィランを逃したんだぞ。逃さなかったら俺はクラスの連中に何があったのかと気忙しい目で見られることもなかったし、てめぇだってくだらねぇことで授業休まずに済んだろうが。そんなモン関係ないわけがない、馬鹿か。関係ないならなんで俺を引き止めやがった。
相澤が来て、言い合いを咎められて。の個性が解けたことを伝えられた。なんだよ、簡単なことだったじゃんねぇか。手間かけさせやがって。
そこでようやく、俺の苛立ちがなんとなくおさまった気がした。




翌日、プリンを見つけたらしいからメッセージがとんできた。やっぱりクソ単純だわ。
と、単純な俺はその時自然と口角が上がってしまったことに気がつかなかったのだが。

(2021/7/5) <PREV▼ TOP