「友達」の定義を問う

 2人の英雄 | 1

「待って今なんて?」
私は今一度爆豪くんに尋ねた。聞き逃せない単語が再び彼から発せられる。
「3人部屋だっつっとんだ。何度も言わせんなやカス!」
「いやいやいや!バクゴー、さすがに3人部屋はマズイだろ!」
ここはIアイランドに向かうチャーター機の中。私と爆豪くん、切島くんが向かい合うように座る座席で、先ほどの会話がなされている。
ことの始まりはこうである。爆豪くんが体育祭で誠に不本意ながら本人の意志の伴わない一位になり、賞品として渡されたのがIアイランドで行われるIエキスポへの招待状。一般公開前の招待とあって、興味のある者からすれば喉から手が出るほど欲しがる(緑谷くんあたりが多分そうであろう)チケットを、爆豪くんはただの紙切れとのたまうのだから大物というか何というか。興味を全く示さない爆豪くんが卓上でチケットを遊ばせている所に切島くんが通りかかり、同伴者の記載を見つけ、行くなら連れてけよと半ば強引に約束を取り付けていた。そこまではよかった。
も連れてくだろ?」
なんて?自分の席で授業のノートをまとめるフリをして爆豪くんを盗み見ていた私は、突然自分の名前が出されたことに動揺した。
「あ?何でだ」
「同伴2人まで行けるってよ。一緒に連れてってやろうぜ」
「ンであんなクソブス」
はい、そんなクソブスも切島くんの突拍子もない提案に混乱している最中ですよ。テンパりすぎて引いていた赤いラインがミミズのようにノートの上をのたくっていた。フリクションではないから消せるはずもなくため息をついていると、いつのまにか切島くんが私の席の前まで来ていた。
!Iエキスポ行こうぜ!」
まさか直接話を振ってくるとは思わず、ぽかんとしてしまった。
「え、あ、なに?」
「Iアイランドだよ。バクゴーの招待状で行けるってよ!」
知ってます、盗み聞きしてました。そして改めて聞いても私を誘う脈絡がわからない。切島くんは楽しそうに目を輝かせているから、断りにくいのが難点だ。
「えっと、それ私が行ってもいいのかな。その…爆豪くんの許可が必要でしょ」
いくら切島くんが誘ってくれても、チケットの所有者たる爆豪くんの許可なくしては同行は不可能に近い。自分の席でこちらを睨みつけている爆豪くんの雰囲気からOKが出るとは到底思えないし。と完全に傍観する構えだったのに。
「バクゴー、いいよな!?」
「…………好きにしろや」
小さくおざなりに言い捨てられた肯定。来るとは思わなかったその返答に目を見張る。その表情を伺うまでに彼は前を向いてしまった。
「じゃー、も参加で!」
「もう行くことになってるのね…まぁ、いいけども」
暇とは言わないけれど興味はあったし。何持っていけばいいか後で教えてね、と切島くんに言っておく。爆豪くんに聞いても答えてもらえなさそうだから。
クローゼットの奥深くからキャリーケースを掘り出さなくては。Iアイランドといえば洋上の孤島、そこまでの旅行という気分になれば気分が浮上する。書きかけのノートは旅行の持ち物メモに取って代わっていた。




そして今、大海原のはるか上空で新たな問題が浮上した。
「待って、私と爆豪くんと切島くんで3人部屋なの?」
「何か文句あっかよ」
「…文句っていうか、問題があるよね?」
「あ?」
「バクゴー、さすがに女子と男子が同じ部屋はマズイって!」
「クソ髪、テメェが誘ったんだろうが!同伴条件のとこ読んでなかったんかよ。一部屋って書いてあったろーが」
「…マジで?」
その反応に頭を抱えざるをえない。切島くん読んでなかったんだね…それで私を誘ったんだね。爆豪くんもなんでその時教えてくれなかったの。私も3人同室だって知ってたら安易に行くだなんて言わなかったよ。狼の群れに放り込まれた羊、とは思わないが、この事実がクラスメイトに知られた時になんと言われることか。
しかし、もう既に飛行機は洋上であり引き返すことなど出来ない。爆豪くんの名義でほいほいついて来てしまった手前、ここで爆豪くんの機嫌を損ねるのも賢明ではない。どうあっても行く以外の選択肢はないのだ。
「えっと、じゃあ一応ホテルについたらフロントで確認しよう。さすがにイベント中だと別の部屋が空いてるかわかんないけど…ダメだったら、その、3人部屋で…」
覚悟を決めなくては。島に着くまでの時間、こんな複雑な思いで過ごすとは思わなかった。
切島くんは到着するまでずっと気を遣ってくれていたけれど、爆豪くんはヒーロー雑誌を顔に被せて寝入ってしまっていた。同室だとして、なんとも思われないのはそれはそれで複雑な気持ちだった。




ホテルに着いてしまった。そう、着いてしまったのだ。3人部屋は広くも狭くもなく、ベッドはちゃんと3人分あった。一番窓際を真っ先に爆豪くんにおさえられたので選択肢は2択だけど。切島くんが申し訳なさそうに提案してきてくれる。
「あー、えっと、壁側でいいか?」
「うん…さすがに真ん中はいたたまれないかな…」
「だよな!ごめんな!衝立みたいなモンあればいいのにな」
これが峰田くんや上鳴だったらフロントに押しかけた時に無理矢理にでも一部屋増やしてもらうところだが、そもそもイベント中につき部屋が空いていないこと、そして爆豪くんと切島くんというメンツだからこそ私も渋々同室に同意したのだ。そういうところの信頼はある。
それに、もう来てしまったものは仕方がない。切り替えて楽しいことを考えよう。
「そいや、今から出かける?エキスポ会場、ヒーロースーツ着てくんだよね?」
「お、そういや着て回れるって話だったな!」
そんな話をしながら爆豪くんに目を移すと、視界に入ったのは裸の背中。既に彼は粛々と上着を脱ぎ出していた。唐突な異常事態に私はわかりやすく悲鳴をあげた。
「まっ、脱ぐなら言ってよ!!!!」
「あ?俺ァ別に見られてどうこうはねぇよ」
「爆豪くんはね!?私があるんだよ!!」
「るっせぇな、バスルームにでも引きこもってろや」
言われなくても引きこもります!すぐさまヒーロースーツケースを引っ掴んでバスルームに駆け込んだ。閉じた扉越しに切島くんの嗜める声が聞こえるけど、私はそれどころじゃない。
さっき見てしまった背中が脳内にリフレインする。爆豪くんのヒーロースーツ自体、上はぴったりする系だからそのラインはいつも見ているものと変わらないはずなのに、脳内が肌色で埋め尽くされてしまってダメだ。浮き出る背骨が色っぽすぎる。顔がかぁっと熱くなった。
「やっぱ早まったかも…」
のろのろと自分もスーツに着替える。どうにか熱を冷まそうと頭から水を被ったりもした。見てしまったものの印象が強すぎて全然効果はなかったけれど。あれ、これ何泊するんだっけ…。

(2020/7/31) ▼ TOPNEXT >