「友達」の定義を問う

 2人の英雄 | 2

ヴィランアタックで切島くんや爆豪くんがとても生き生きしている。それを遠目で眺めつつ、テラス席でドリンクを飲んでいた。タイムアタック参加に際して、さすがに私は丁重に遠慮した。分解の個性はそこそこ遠くにも使えるけど、あのアスレチック自体を駆け回る脚力に自信がなかった。
やぁ、それにしても爆豪くんがダントツか。やっぱりすごいなぁ。そんな感想を抱いていると、不意にトントンと肩を叩かれた。
「お嬢さん、ヒーロー?お一人?」
多分、日本語だから日本人ではあるんだろう。見てくれは金髪にアロハシャツという、ああ、上鳴をもっと馬鹿にした感じだ。話しかけてきた男はにんまりと笑って、私が何かを返すより先に向かいの席に座った。図々しい奴だな、とむっとしながらそっぽを向いて答える。
「お生憎様、連れがいますのでお構いなく」
「そうなんだ?さっきからずっと一人じゃない?ね、僕と一緒にエキスポ回らない?」
本当に図々しい、というか全然話を聞いていない。なおも食い下がる男に憮然とNOを突きつけていると、相手はドリンクを持つ手に指を這わせてきた。嫌悪感に肩を震わせすぐさま手を引っ込めて隠せば、あちらはくすくす笑っている。
「何なんですか。嫌だって言ってるでしょう」
「やぁ、怒った顔もかわいいね」
ダメだ、こいつ全然会話が通じない。面倒くさいな。そもそもそのにやにやした顔にめちゃくちゃ腹が立ってしょうがない。しかしここは人目のある場所だ。面倒な騒ぎを起こしたくはない。
どこかに逃げようと席を立とうとした矢先、不意にテーブルに影が落ちる。
「誰だこいつ」
爆豪くんがテーブルの横に居て、男にガンつけている。私が内心ほっとしながら知らない人、と言えば彼の眉間の皺は3割増した。
「あれ、ほんとに彼氏来ちゃった?残念」
男は相変わらずのにやにやした顔でふらっとどこかへ行ってしまった。難敵が去って盛大にため息をつく。
「爆豪くんありがとう…助かった」
「面倒くせぇと思うならぶっ飛ばせや」
「さすがにこの場でやったら追い出されるの私でしょ」
爆豪くんの同行者という名目上、迷惑をかけるわけにはいかないでしょ。そう言うと眉間の皺がもっと増えた。や、やめてよ、こんなとこで爆発しないでよね。
乱暴にテーブルの上にある飲みかけのレモンスカッシュを奪われる。や、待って、間接キスになっちゃ……わなかった。ストローが煩わしいのかグラスの縁に口をつけて氷を貪っている。嚥下する喉仏をチラ見しつつ、ワイルドだなーと眺めている間に半分くらい飲まれてしまった。
「甘ェ」
「自分で買ってくればいいのに」
「いらねーわ」
じゃあ私の飲まないでよ!卓上に戻されたグラスを手にしたけれど、また口をつける気にはなれなかった。爆豪くんが飲んだ後、だし。
「そういえば、切島くんは?」
「クソデクとクソうるせぇ話してやがる。俺ァホテルに帰るぞ」
「じゃあ私も帰ろ」
「あ?」
「だって、またさっきの人来たらやだし」
見知らぬ男に気安く触れられるなんて、気持ちのいいものではない。私にだって選ぶ権利というものがあるのだし、次に絡まれたら今度こそ手を出してしまいかねないし。爆豪くんが来てくれたから丸く収まったものの、内心引っ叩いてやりたくて仕方がなかったのだ。
エキスポを見て回りたい気持ちはあったけれど、夜のパーティーに向けて着替えもしないといけない。
「勝手にしろや」
ホテルに向かって歩き出した爆豪くんの後を追う。切島くんに連絡のメッセージを入れると、向こうもぼちぼち帰るとの返事が返ってきた。開いたエレベーターから爆豪くんが急かしている。早くしないと爆発しそうだったので、私は駆け足でそちらへ向かった。




「わ、二人ともかっこいいね!」
「サンキュー!」
「ケッ」
バスルームに駆け込み、大急ぎで着替えて髪を軽くセットして。私が鏡とにらめっこしている間に爆豪くんと切島くんの方は準備できたようで、ドアをガンガン叩かれてしまった。招待客だからといってドアを遠慮なく叩いてもいいというわけではないと思うよ爆豪くん。
ドレスコードありのパーティーというものは初体験だ。私もそこまで上等なものではないけれど、それなりに見える格好をしてきた。
のドレスも可愛いよな!な、バクゴー!」
「え、そ、そう?ありがと…」
切島くんは裏表もない感想を直球で投げてくれるので、私は気恥ずかしさに耐えかねて下を向いた。薄い色のラメのついたパーティードレス、スカート短くないかな、ヒールそんなに高くないけど歩きづらいな、ラメで目立ったらやだな、…爆豪くんはこの格好どう思ってるんだろう。
「…どうでもいいわ。つか行くならとっとと案内しろや」
うん、やっぱり感想なんてくれませんよね。期待値はもともと低かったからダメージはあんまりない。ぷいと明後日の方向を向いてしまった爆豪くんの機嫌をこれ以上損ねないように努めないと。
「そうだね。待たせてごめん。行こ!」
遅れたら飯田くんがうるさそうだし、随分お腹も空いている。男子二人を先導するように歩き出した。




ホテルを出てどれくらい経ったのか。いつのまにか先に立った切島くんの後について目的地に向かったものの、一向にたどり着く気配はない。それどころかここらへん、誰もいないんだけど?妙に殺風景だし、一般人が入っていいエリアなのか不安になってきた。
そのうちに爆豪くんの機嫌が悪くなり始めていたので、切島くんが様子見てくる!と元気に駆け出していった。後に残った私たちは、各々反対の壁にもたれて休憩する。正直、歩き慣れないヒールで疲れていたので小休止は助かった。
「ねぇ、爆豪くんはどこでやるか知らないの?」
「知るわけねーだろうが。そもそも行く気がなかったんだからよ」
「そっかぁ…」
「…俺ァ帰る。切島にそう伝えとけ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。招待されたの爆豪くんなんだから、一緒に来てくれないと私たちも入れないんだってば」
「クソめんどくせ…」
あぁ、これは良くない。爆豪くんが目に見えて機嫌が悪い。切島くん、まだ帰ってこないのかな。正直、間を持たせるなんてスキルは私にはない。爆豪くん相手にそんな器用なことができる人もそうそういないだろうけど。
廊下の先を眺めていると、彼の舌打ちが聞こえた。ううん、これは私も動いた方がいいのかな。
「私も誰かに聞いてこようかな」
「は?うろちょろすんなブス。おい!」
爆豪くんの制止を聞かずに、切島くんの行った方向とは逆の道へと進んだ。後ろから「勝手にしろ」なんて言葉も投げつけられたけれど、聞かなかったことにする。

もうパーティーに遅刻は決定事項だろうし、恥も外聞もあったもんじゃない。タワーの従業員に聞くのが手っ取り早いだろう。幸いにも、通路の先にあったエレベーターの前で話をしている人が二人いた。あの人たちに聞いてみよう。
「あの、すいません。エキスポのパーティー会場ってどこですか?」
「あ?」
まるで爆豪くんみたいな返事をされた。警備員にしてはガラ悪いな、と思ったけれど世界中から人が集まるのだから、そのくらいの対応で当然なのかもしれない。
「お前、どこから入ってきた」
「うわ、やっぱ入っちゃダメなとこだったんじゃ…?」
「なに訳のわからんことを。さあ来い」
男が手を伸ばす。瞬間、何か違和感を感じて後ずさった。何かがおかしい。警備員だとしても、ここまで乱暴に扱うものだろうか。
「あの、すいません。本当に道だけでいいので…」
「捕まえろ!」
なおも男たちは躍起になって私を捕獲しようとする。それについて私は逃げを選択した。やっぱり何かが変だ。この人たちは怪しい。
身を翻し、来た道を戻る。その先に爆豪くんがいるはず。
「小娘が!」
追いかけてきた男ににスカートを掴まれ、履き慣れないヒールも相まって崩れるように転倒した。本能で逃げようとする足首をもガッチリ掴まれたので、掴まれていない方の足で顔に蹴りを入れてやった。硬い靴底が鼻に当たって不快な感触だったけれど、背に腹はかえられない。怯んで緩んだ腕から逃れ立ち上がろうとしたところで、いきなりブレーカーを落とされたように身体に力が入らなくなった。
「あっ…?」
「…手こずらせやがってこのガキ、」
頬を殴られたと気づいたのは壁に頭をぶつけた時だった。受け身をとることも出来ず与えられた強い衝撃に、生理的な涙が滲んだ。男二人がかりでこんな女子一人に、本当になんてことするの。
さっきの違和感は正しかった。やはり警備員などではなかったのだ。このタワーで何かが起きている、みんなに知らせなくては。動けなくなったのはどちらの個性なのか、伝えなきゃ。
「ここで転がしとくわけにもいかねぇ。上に連れてくぞ」
身動きはできないまま、また強く殴られて。今度こそ私は意識を失った。

(2021/4/3) <PREV▼ TOP