「友達」の定義を問う

 13 |雄英卒業後プロヒ・爆豪君のつきまといの子

「あー、あれな。なんか最近見なくなったんだってよ」
「はい?」
ちょっと間抜けな声が出てしまったのは仕方がないと思う。今日の用件が一言で終わったしまったからだ。
いつも行く地区とは別、マスターが知ってる奴だからそういう話ならそこで、と指定されたのはお洒落な喫茶店だった。切島くんと瀬呂くんどちらにも連絡はとれたけど、都合がついたのは瀬呂くんだけ。そして用件を伝えた矢先に言われたのが冒頭の台詞である。
爆豪くんが迷惑な付きまといをされていて、それを私に話してはくれないからと第三者に聞きにきたのに、いつの間にか解決事項になっていたとは拍子抜けである。
「俺もよく分かんないんだけどな、前は事務所にヤバい手紙が届いたり、パトロールの出待ちされたり、盗撮されたり…まぁ色々あんったんだが、そういうの一切なくなったんだってよ。推しヒーローでも変わったんじゃないかね」
「そう…?ならいいんだけど」
自分でも歯切れの悪い返事だと思った。意気込んでここに来たのに不完全燃焼だったから、それもある。役に立ちたかったのに、それすら出来ないなんて。
そんな私に気づいたのか、向かいに座っていた瀬呂くんは苦笑いする。
「まぁ、あんま心配すんなよ。…はぁ、何で上鳴は話しちまうかな。俺サイドキックに呼ばれてんのに、事務所入る前に爆豪に殺されたくねぇよ…」
サイドキック。その単語に反応して顔を上げた。
なんで気づかなかったんだろう。彼が真っ先に声を掛けたのが私だと、何故か思い込んでいた。
「瀬呂くんも爆豪くんの事務所に呼ばれてるの?」
「おお、俺と切島は学生の時に誓約書書かされたぜ。爆豪事務所に絶対に入りますってな。ほんとコエェわ、あいつの将来設計。まぁ、俺は仕事出来てちゃんと賃金貰えるならどこでもいいって言っちゃったしな。…あれ?も、ってことはお前も?」
「…うん、私も、サイドキックって」
なんてこった。そうだよ、サイドキックって別に特別なことでもなんでもないじゃない。ヒーロー事務所ならそれなりの人数を確保するはず。爆豪くんに言われて浮かれてただけで、これでは友達と変わらない。いや、いつもつるんでる瀬呂くんたちと比べたらそれ以下だ。
私一人で浮かれていて、馬鹿みたいじゃないか。
「おい、なんで泣いて…」
「え」
「か、勘弁してくれよ…。俺、爆豪にマジで殺されちまうって」
不意に頬を伝ってテーブルにいくつも雫が落ちていく。瀬呂くんが慌てて差し出してくれたハンカチはいくつも染みを作っていった。私、泣いてるのか。雫の染みはどんどん増えていく。瀬呂くんは辛抱強く待ってくれたけれど、その優しさが余計に苦しくて涙は全然止まらなかった。




「色々気にするな」、瀬呂くんはそう言ってくれたけど無理だ。帰りの足取りは重かった。今日の私はダメダメだ。何も出来てない。むしろ瀬呂くんに迷惑をかけただけ。どんどん気が重くなった。
アパートに着いて明かりをつけずに暗い部屋を見渡すと、気分が一層沈んだ。動くのも億劫になる。ベッドに行くのすら面倒になって、今日はこのまま寝てしまおうか、そう思った時。

カタン、と郵便受けから音がした。何だろう、配達の時間ではないはずなのに。玄関に近づき、郵便受けを確かめると茶封筒が1つ入っていた。表にも裏にも何も書かれていない。勿論消印もない。
その時の私は注意力を欠いていた。これを不審なものと警戒をせずに封を開け、中身を見てしまったのだ。入っていた3枚の紙にはそれぞれ、切り貼りした文言があった。

『あなたをみています』
『うらやましい』
『わたしとかわって』

「なに、これ…」
声が震えた。思わず手紙を取り落とし、後ずさる。誰が、どんな意図で私のところに送ってきたのかは分からない。分からないから余計に不安になった。ただのヒーローファンの行動にしては不気味で、嫌がらせにしては執拗。『みています』。無機質な文言に途端に怖くなって部屋のカーテンを閉めた。どこで、どこから見られているのか分からない。誰か、

不意にスマホの音が鳴って身体が強張る。聞き慣れたそのメロディーは、私が爆豪くん専用にしている音だった。それだけで少しだけ心が落ち着く。バッグから取り出したスマホを確認すると、いつもの夕飯のお誘い。心細くて、どうしても会いたくて、[すぐ行くから待ってて]と、いつもはしない返事をして部屋を飛び出した。




階段を駆け下りたところで、一人の女性がアパートの敷地の入り口に居るのに気がつく。ショルダーバッグを肩から掛けた白いスカートのかわいい見た目の女の子。こんな夜に、アパートにいる誰かと待ち合わせだろうか。私の足音に気づいたのか、こちらを向いた。
「こんばんは」
挨拶をされたので、私もこんばんは、と返す。何もおかしなところはなかった。しかし、その隣を通り過ぎようとした時、すぐ後ろから声がした。

「私と、かわって」

一瞬、何か起きたのか分からなかった。視点が突然変わったのだ。え、と声を出そうとして、身体に強い衝撃を感じた。意識が遠くなる。
「ありがとう、これで爆豪くんに会える」
意識が薄れていく中、何故か自分の声を聞いた。




暗闇の中、目を覚ました。頭がクラクラする。何をされたんだろう。少しだけ痺れる感じがする。スタンガンか、痺れる毒か、どちらにしても気味のいいものではい。
闇の中、薄っすらと光の筋が差していたのでそちらを目指した。何かの建物の中のようだったが、それほど広い空間ではなく、拘束もされていない。隙間に手をかければ外に出るのは容易だった。外を見れば、そこはアパートの敷地にある物入れの中。
とにかく出ようと足を踏み出して気づく。私の靴じゃない。白いスカートも、私が着ていたものではない。でも、どこかで見たことがある。どこだ、一体。答えは案外すぐに出た。
「…あの、女の子」
私が気を失う寸前に見たあの女の子だ。何の目的か分からないが、私を気絶させてこの物入れに閉じ込めたのか。他に身体におかしい所はないか確かめて、気づく。上着も、髪も、あの女の子と同じ。
『私と、かわって』
彼女の声を思い出す。嫌な予感がする。もしかして。
顔を上げ、アパートの窓ガラスに映っていたのは、私のものではなくあの女の子の顔だった。




今、何時なんだろう。バッグもスマホも消えていたので、爆豪くんとは連絡できない。鍵もないから家にも入れない。ヒーロー免許もないから自分を証明できない。どうにもならなくて、あてもなく歩いた。近くにあった公園の真ん中、時計が無情にも現実を突きつけてくる。午前、3時。

ああ、また爆豪くんとの約束を破ってしまった。また私の不注意で。下瞼が熱くなって、涙が溢れ出す。ごめん、爆豪くん。
昨日あれだけ泣いたのに、また泣くのか。不甲斐なさと理不尽さが相まって、夜が明けるまで公園の人目のつかない所で泣きはらした。自分の声じゃないから、泣いているのに泣けていない気がした。




一晩泣いて頭は随分とクリアになった。失敗した分、ここから挽回しなければならない。あの女の子を見つけ、個性を解除させる。目的が立てば行動するだけだ。
女の子について個人の情報は皆無だが、手がかりはある。私が意識を失う寸前に言った、爆豪くんに会えるというフレーズ。もし彼女が爆豪くんに付きまとっていた子だったとすれば、私の姿をして彼に会いに行くはず。彼に先にそれを伝え、出来るなら阻止しなければならない。自分に降りかかった分は自分の招いた結果だけど、爆豪くんの信頼を奪われるのも、汚されるのも許せない。悔しさを拭えば、残っていたのは純粋な怒りだった。

しかし、爆豪くんの近辺に近寄れば少し見通しが甘さを認めなければならなくなった。街の中心にそびえ立つヒーロー事務所の前で途方に暮れる。付きまといについて事務所内で周知されていたらしく、この姿では会うことすら叶わなかった。今の自分を証明できない限り、何を言っても妄言だと思われてしまうのだ。
「はいはい。君ね、暫く見なかったのに、また懲りずに来たの?憧れて見るのはいいけれど、あんまりしつこいのはダメだよ」
そう事務所の入り口で言われて追い払われてしまえば、こちらは引き下がるしかない。同じヒーローなのに、心底面倒な目で見られるのはかなり堪えた。
歩きながら次の手を考える。事務所が駄目となれば、パトロール中を捕まえるしかない。爆豪くんの家を聞いていなかったことを今更のように後悔した。




「爆豪くん!ねぇ、今日終わったら一緒に飲みに行かない?」
市街地をパトロール中の爆豪くんを見つけたのは、もうお昼に差しかかろうという頃だった。人通りの少ない休日のオフィス街の歩道を通りかかった彼の腕にしなだれ掛かっていたのは、私。それを見てしまった時は、ただただ冷静になれと思う一方で、心は酷く荒れ狂っていた。私の声で呼ばないで欲しい、私の手で触らないで欲しい、今すぐに離れて。個性が使えたらきっと歩道をめちゃくちゃに割っていた。我慢ならない。
この姿で出て行って爆豪くんに嫌悪の目を向けられたとしても、あの子を止める。そう思って走り出そうとする寸前、爆豪くんが『私』に向けて掌を構える。
「テメェ、誰だ」
「え、」
「死にたくなかったら今すぐ失せろ。俺ァすこぶる機嫌が悪い。ヴィランじゃなくても容赦しねぇ」
地を這うような低音が鼓膜を震わせ、隠しきれない怒気が言葉の端から漏れている。私が見た限り、これほど怒っている爆豪くんを今まで見たことはない。わたしの姿をした女を、マスクから覗く赤い目が静かに射抜く。女はその眼光に戸惑いながら、なおも縋った。
「何言ってるの爆豪くん、冗談やめてよ」
「そっちがやめろや、気色悪ィ。何の個性だ、ア゛ァ?!答えろや!!!」
目の前の女のその声も姿も私なのに、爆豪くんは「誰だ」と問う。その手を振り解き威嚇する。その強い拒絶から見るに、私ではないことに気がついているのだ。それに安堵する自分がいた。
女は予想外の展開にすっかり勢いを無くして立ち尽くし、追い討ちをかけるように爆豪くんが2、3度手のひらで爆破を起こす。
「確かに姿も声もアイツだわ。でも違ぇ」
「なんで、私だよ爆豪くん!」
「ヒーロー名で呼べや三下。ヒーロースーツ着てたら活動中、雄英出て知らねぇわけねぇだろうが!!」
ドスのきいた怒号が響き渡った。確かに、雄英時代にヒーロー活動中は本名呼び禁止と相澤先生に散々シメられて覚えさせられた。でも、それだけであれが私じゃないって見抜けるの?
ともかく、爆豪くんを止めなくては。ヒーロー名で呼べという彼の宣言通り、力の限り声を張り上げてその名を呼ぶ。こっちが私だと気づいてくれなくてもいい。ただ彼女を今すぐに引き離したかった。
呼ばれ振り向いた爆豪くんがこちらを向き、訝しげに見てくる。その視線を受け止めて真っ直ぐ返した。
「ア゛?!テメッ、」
「っ、その人、個性、入れ替わり!」
そう伝えた瞬間、何かを察したように彼は笑った。頭の回転が速い彼には、その一言で全て分かったようだ。口端が小気味よく持ち上がり、爆豪くんなりの満面の笑みへと変わる。見る人によってはヴィランにしか見えない顔。
「ハ、そういうことかよ」
「ひっ!」
「じゃあブチ殺してもいいなァ、」
「えっ、ちょっと待って、なにす、」
爆豪くんが迷いなく私に向けて構える。その事実だけで冷や汗ものだ。怯えきった女を前に、さすがに止めなければと慌てて静止はしたけれど、全く聞く耳もなかった。
響く爆音とともに、私の姿をした女の右スレスレに向けて遠慮なしに徹甲弾が放たれた。周囲に被害はでないとはいえ、ヒーローのすることじゃないでしょ!と女の無事を確認するために駆け寄る。本来ヴィランに向けて放たれるその一撃は、強力な破壊力を持っていた。至近距離で受けた『私』の髪は若干焦げていた。…私の髪!?
その一瞬で視点が変わった。いつの間にか私の前には徹甲弾の構えのままの爆豪くんが居て、私の髪はチリチリになって…。私の、髪…?
「っ、何してるの!?私を傷付けないでよ!」
「うるっせぇ!元はと言えばテメェが乗っ取られんのが悪ィんだろが!!!」
「そうだとしてもやり方があるでしょ?!」
「戻っとんだからギャーギャー騒ぐんじゃねえわこのドブス!!」
「いやだって戻っ、……あれ?」
…戻ってる。ペタペタと頬を触ったり、前髪を触ったりしてみる。声も、服も、私の身体だ。もとに戻った。けど、なんで?
振り向いてみれば、すぐ隣にあの女の子が倒れていた。フン、と鼻を鳴らした爆豪くんが拘束具を持ち出す。
「気絶したから戻ったんだろ。こいつがクソ迷惑女だわ」
「…そっか」
慣れた手つきで女の子を捕縛するのを呆然と見守った。入れ替わりは不思議な感覚だったけれど、この子がアパートに手紙を入れたり物入れに閉じ込めたのだと思ったら身震いがした。見た目は普通の女の子なのに。ヴィランだっていつでも悪意を表にして襲ってくるわけではない、そう戒められる。
がっちりと捕縛は完了し、爆豪くんが私に向き直った。私の昨日からの失態について、きっと怒られる。緊張して、自然と背筋は伸びた。
けれど、予想に反して怒られることも怒鳴られることもなく、事務的な声が降ってきた。
「スマホ、返すぞ」
「…あれ、私の?何で持ってるの?」
「アパート。敷地に落ちとった」
静かな声で彼は告げた。アパート。それって私のだよね、と聞きかけた。聞かなくてもわかるだろ、爆豪くんの目がそう言っていた。
「昨日、来なかったろうが」
「…ごめん、また約束すっぽかしちゃったね」
多分、情けない顔をしているという自覚はあった。私が来ないから、きっと見にきてくれたんだ。でも私は居なくて、スマホだけが落ちてて…。もしかしたらその後、探してくれたのかもしれない。また心配をかけてしまった。
受け取ったスマホを握りしめて俯く。煤けて無残な姿になった髪が垂れ下がっていた。
「オイ、」
呼ばれて顔を上げた。後ろ髪を掻き、ため息をついてから爆豪くんが近づいてくる。右腕を広げたから、私は咄嗟に殴られるのだと思って身を竦めた、のだが。
「…爆豪くん?」
広げた右腕がそのまま私の背中に回り、抱きすくめられた。至近距離だったから思わず名前で呼んでしまったが、咎められることもなく、ただ回された右腕に力が入るのを感じた。彼のつんつんした髪が頬に触れ、それが相変わらず柔らかいままなことに安堵した。
「自分で返事した癖に来やがらねぇ、アパートは空、スマホは落とす。挙げ句の果てには一般人に入れ替わられてる、だァ?……テメェほんとにヒーローかよ」
「それは…私も反省することは大いにあるなと…」
「るせぇ。反省しろ、猛省しろ。あと俺に詫びてしねクソブス」
「…ごめん、」
右腕の力がますます強くなって、もはや絞められていると言っても過言ではない。背中がミシミシ軋んでいた。でも、そうさせるだけのことをしたのだと自分を顧みて、甘んじて受けとめた。クソが、と肩口で吐き捨てられた暴言があまりにも苦しそうで、もう一度ごめんと謝った。




捕縛された女の子と私は爆豪くんの所属事務所に連行され、女の子は実害が出たということで警察に身柄を引き渡されることとなった。彼女は会いたかっただけなのにとずっと泣いていた。

終わるまで事務所で待ってろ。爆豪くんはそう言ってパトロールへ戻って行った。事務係のヒーローにうち応接室ないからここ座ってくれる?と爆豪くんのデスクを示されたが、本当に座って居るだけというのは居たたまれない。何か手伝えることありますか、と申し出る。事務のヒーローさんはすぐに泣きついてきた。そうして事務処理を引き受けたものの、綺麗に片付けられたデスクが気になってそれほど捗りはしない。卓上のカレンダーにも色々予定が書き込まれていて、彼の忙しさを表していた。




昨日の仕切り直しだと、いつもの店へ連れていかれて。本当はお酒を飲みたかったけれど、それは前科があるのでやめておいた。昨日の今日でこれ以上爆豪くんの世話になるようなことはできない。ウーロン茶をちびりちびりと飲みながら、向かいの彼に声をかけた。
「爆豪くん、あのさ」
「あんだよ」
「サイドキックにしてくれるっていうの、まだ、有効なんだよね」
爆豪くんの手が止まる。少しだけ機嫌を損ねたようで、眉間の皺が増えた。
「嫌なんか」
「ううん。なんか、ヒーローとして不甲斐ないとこばっかり見せちゃって、愛想つかされてたらやだなって思って…」
「…そーだな」
「そこはそうじゃないって言ってくれるとこじゃない?」
「アァ?不甲斐ねぇだろうが。嘘ついてどーすんだ」
「正論、痛いなぁ」
爆豪くんは正直だから容赦ない。それがいいなと思う時もあるし、ちょっとどうかなと思う時もある。私は彼に少し甘え過ぎていると自覚しているから、少し強引でも制してくれて有難いなと思うのだ。
「いいか、テメェはもう俺のサイドキックって決まっとんだからしっかり足掻きやがれ。これ以上弱ェとこ見せて来んじゃねぇぞブス」
「頑張ります…。あのさ、自覚が持てるように瀬呂くんたちみたいに誓約書書いた方がいい?」
「ハァ?!次はしょうゆ顔かよ!何喋ってんだあの野郎!!」
「だって私だけ、それ、書いてないんでしょ。口約束って弱くない?」
あの約束の場面が強かったか弱かったかで言えば、死ぬまで忘れられないくらい強い印象に残っているが、それは私の心の中だけで爆豪くんにもちゃんと残ってないと意味がないんだよ。そういう恨み言のつもりで言ってしまったのは、多分、瀬呂くんたちが羨ましかったからだ。私が不満から述べていると気がついたのか、忌々しげに舌打ちをされてしまった。
「テメェは逃げねぇだろうが。だから書かんでもいい」
そりゃ、逃げませんよ。あなたが好きだから。
この心を知られてしまっているようで、少し焦る。やっぱりお酒が飲みたかったな。ウーロン茶じゃ、頬の赤みをどうやって誤魔化ばいいかわからない。辛いものでも食べていればよかった。
「じゃあ、引き続き精進させていただきます」
「そうしろ」
「…それと、」
「まだ何かあんのかよ」
「爆豪くんの家、教えてくれる?」
「は?」
まさしく、何言ってんだこのブス、と言わんばかりに硬直されたので、今回の一件で頼るところがなかったと正直に暴露した。自分の失態を告白するのは勇気が必要だったし、爆豪くんが聞きながら眉間の皺を増やしていく様は心臓に悪かったけれど、聞くなら今しかないと思ってしまったのだ。
「無理だったら別に…私が気をつければいいだけだし」
「そうだな、テメェがどうにかすりゃいいことだわ」
「…だよね」
やっぱり教えてくれないよね、と項垂れる。グラスの水滴を眺めながら一人反省会を悶々としている間、いつもの赤い目が私を見ていたことに私は気づかなかった。




その後しっかりアパートまで送られた後、お風呂上がりにスマホの通知に気付いた。さっき別れた爆豪くんから。送られてきたメッセージには、マンションの住所。
[用件は管理人に言え。酔っ払ってチャイム鳴らしに来やがったらマジでころす。あとアホ面には死んでも教えんな]
教えてもらった理由が理由だけど、やっぱり浮かれてしまうし、それに安心する、その住所がいつも乗る電車の反対方向にあることも、いつもつるんでいる上鳴より先に教えてもらったことも。とにかく胸がいっぱいになって、スマホを抱えたままベッドにダイブした。

(2020/7/27) <PREV▼ TOPNEXT >