「友達」の定義を問う

 2(爆豪視点) |雄英1年・神野後

女を見目で振り分けたことはない。髪が長いとか、輪郭が丸いだとか、二重だとか心底どうでもいい。そんなことに意味はない。どんなに外面が良くても性格が破綻してる奴だったら意味無いだろ。
…オイ、今俺のことだっつった奴、おもて出ろや。マジでころす。
は何もかもが普通、俺に言わせればただのモブだ。記憶に残らないような顔、特徴のない外見、そこいらの女と同じように俺を追いかけ回し、ザコみたいな個性で踏ん張ってるただのモブ。
そいつが喧嘩をふっかけてきて、俺が何故かそれを受けることが常習化して。自分でも訳が分からない状態になってから暫く経った頃。

神野の悪夢。誰だよ、そんな名前つけた奴。テレビをつければどこの局でも同じテロップ、同じ話題。ウンザリしてリモコンを叩きつけるように床に投げた。カバーが外れて電池が飛び出したが知ったことではない。あぁ、確かに悪夢だよ。毎晩夢に出てきやがる。夢見が悪くて眠れない夜が続いた。
俺の憧れが、俺のせいで消えてしまった。どんなにピンチでも、絶対に勝つ。勝って、終わってしまった。超える前に消えてしまった目標に、空虚な心だけが残った。

正直、休みの間誰にも会いたくなかった。それなのに、あのブスストーカーときたら俺んちのドアの前でクソうざったい顔を晒してきた。
「…友達だもん、心配するよ」
何だそのクソ寒ィ関係は。俺はそんなもんになった覚えはない。余計なお世話だ。
つーかこいつ、アホ面と同中だろ。埼玉とかじゃなかったか?わざわざこんなとこまで来やがって、マジで救いようのないバカだ。
誰にも心配されたくない、同情もされたくない。そんな必要はどこにもない。雑に押し返せば向こうはトボトボ帰っていった。それで清々した、はずだった。




辺りが暗くなった頃、玄関のチャイム音がけたたましく鳴り響いた。俺は夕飯の後リビングに居たが、ババアが手が離せないから出ろと怒鳴ってくる。仕方がないので非常識な馬鹿野郎の面を拝みに行くことにする。というかマジで煩ぇ。
ゆっくりとドアノブに手をかける。いつでも爆破できるように、右手をあけて。手汗が滲むのは、暑さのせいだけじゃない。

もしかして、ヴィランじゃないのか。

柄にもなく弱気になっていた。力の差と、俺の弱さを知ってしまったからだ。思わず肩に力が入る。強張ってんじゃねぇ、怖くなんかねぇ、そう言い聞かせた。勢いよくドアを開けて叫ぶ。
「どこのどいつだゴルァ!!」
「ば、くごうくん!」
見送ったはずのが真っ青な顔をして飛び込んできたのは同時だった。玄関の敷居をいとも簡単に飛び越して、 俺の前で泣きそうな顔をしている。
突然の事態に混乱した俺は思わずに怒鳴り散らすが、縮こまって震えている女の様子はいつもと違う。しきりに後ろにある閉じた玄関ドアを気にしているのだ。いや、正しくはドアの向こうに居る、何かに。

もしかして、ヴィランじゃないのか。

さっきの不安がまたぶり返す。そうだ、俺を攫うために他の奴を狙う可能性を考えていなかった。人質戦法などクソくらえだが、見知った顔が犠牲になるのは目覚めが悪い。
何故戻ってきたと問いただしてもは答えない。なんだか庇われているような気がして無性に腹が立った。




寝る前にもう一度問い詰めるために客間に残った。布団を用意してとババアが言った時は何で俺が、と思ったが、マジで叩かれたのとどうにか聞き出してやろうと渋々聞き入れた。それなのに。
「心配してくれてる?しないよね?友達じゃないんだし」
俺は、この女が易々と答えるとは思っていなかった。だから俺の怒りには正当性がある。それ以上に、自分が言ったであろう言葉で返されたことに腹が立った。何なんだ、何なんだよ。
枕を投げつけて客間を出た。もう知るものか。何でこんなに苛々するのか、自分でもわからなくなっていた。




勝手に入れられたアホ面の連絡先をタップする。一生使うことはないと思ったが、今回に限ってはこいつ以外はない。家の住所をメッセージで送ると、案の定[何?!]と要領を得ない返事が返ってくる。分かれや、と理不尽なことを言っている自覚はあったがそう思った。1分も経たないうちに向こうからの着信が来る。めんどくせぇ。
「あんだよ」
「いや、それこっちの台詞だからね。何処なんだよこの住所」
「俺の家。明日の朝来い。そんだけだ」
「待て、待てって!切るなよ、なんかあんの?」
「テメェのオマケみたいな役、居んだろが。ウチ来とんだ。テメェ引き取れ」
「…もしかしてのこと?」
「そう言ってんだろが」
「いや言ってないからね。…何、なんかあったの」
「知らねぇ。昨日、帰りかけてウチに戻って来やがった」
「は〜、分かった。明日な。…バクゴー、お前も大丈夫か?」
「何俺の心配しとんだマジでしね!」
一方的に通話を終了させた。休み明け、クラスのどいつもこいつもが同じ反応をするのだと思ったら余計に苛々した。




翌朝、着いたぞというメッセージがアホ面から入った。同時に、が起きて顔を出してくる。結局、昨日のことは聞き出せなかった。こいつがまた同じことをやらかした時にどうすればいいかを考えて、俺は俺らしからぬ行動に出た。スマホを奪い、パスコードを解除する。数字を知っていたのは、アホ面が同じ番号を使っていると言っていたからだ。恨むなら人前で何でもかんでもペラペラ喋りまくるあいつを恨め。
俺の番号と名前を入れる。
もし。何かあったら、俺のとこに連絡しろ。
などとは言わない。アホ面に引き取られて帰るのを確かめて、自室に戻った。静かだ。
ポケットに入れておいたスマホにメッセージが届いたのは、それからすぐ。[ありがとう]とだけ書かれていた。必要以外使うなと言ったのに、聞いてなかったんかよ。
「何がありがとうだ。何もしてねぇわ」

(2020/7/25) <PREV▼ TOPNEXT >