「友達」の定義を問う

 4 |雄英1年・爆豪くん仮免合格後

「新しい靴欲しいなぁ」
何の気なしに言った言葉は、共同スペースに思いのほかよく響いた。誰にも聞かせるつもりのない独り言だったのに。
夕食が終わり、ほぼクラスの全員が思い思いに過ごしている中、私の独り言を拾った麗日さんがソファーから身を乗り出してきた。
「どんな感じの靴?」
「今使ってるランニングシューズがさ、底が薄くなってる気がするんだよね。特にどれが欲しいとかは決まってないんだけど」
「じゃあさ、みんなで買い物行かない?」
「いいね!行こ行こ!」
葉隠さんや耳郎さん、途中から話に加わった八百万さんも巻き込み、最終的に女子全員で行こうということに纏まった。
どういう服着てこうか〜とわいわい談笑する中、まさか同じスペースで示し合わせたように男子も同じ計画を立てていたなどということに気付くはずもなく。そしてまさかそこに居ない爆豪くんが同行してくるなど夢にも思わなかった。




土曜日。年末も近いモールは売り出し商戦とあって、どこの店も賑わっている。流行に敏感なのはやはり芦戸さん、葉隠さんで、新しいファッション誌の話題がポンポン出でくる。それに対する八百万さんの食いつきが微笑ましくて麗日さんと顔を見合わせて笑った。クレープやタピオカミルクティーに目移りしつつ、モールの真ん中付近まで進むと、なんだか見慣れた一団と鉢合わせた。
「ちょっと、なんで男子が居るのよ!」
「いや奇遇じゃん!俺らだって一緒に遊びに出かけることだってあんのよ〜!なぁ、峰田!」
「おうよ!」
「嘘だ、絶対ナンパ目的でしょあんたら二人は」
女子一同は口を揃えた。上鳴も峰田くんも私たちの冷ややかな目をものともせず、早速連れ立ってどこかに行ってしまった。残された男子のうち、最初に声を上げたのは緑谷くんと飯田くんだ。
「あ、あのさ、僕たち相澤先生に言われて来たんだ」
「え、なに?職場見学とか何か?」
「いや、女子と行動を共にするようにと言われた。先生曰く、最近外出中に雄英女子が声をかけられる事案が発生しているとのことだ。何か危害が加えられたわけではないが用心に越したことはないからな」
「ええ~!なにそれ初耳なんですけど?!」
「一人の時を狙われているとのことだ。出来るだけ集団行動しよう」
委員長である飯田くんに言われてしまえば断ることはできない。というか上鳴と峰田くんはほんとにナンパしに来たけなのか…。そんなことだろうと思ったけど。
さて、ここで二人減ったとはいえクラス全員で行動するのは難しいのでは?という懸念にぶち当たる。ただでさえ混雑しているモールで大所帯での行動は制限されるだろう。
「4グループくらいに分かれた方がよくない?買いたい物もバラバラだろうし」
「うん。特にない人は適当に割り振る感じでいいんじゃないかな」
「そだね〜」
「ではご希望を取りまとめますね」
テキパキとまとめる八百万さんを中心に、グループが割り振られていく。私もウエアを見たいという麗日さんに同行しようとしたのだが、声を上げる前に突然強い力に引きずられた。何事かと振り向けば、爆豪くんが私の首根っこを引っ掴んで宣言する。
「俺ァ、テメェらとはつるまねぇ」
「かっちゃん!ダメだよ一人で行くのは…」
「一人じゃねぇわ、こいつ連れてくなら文句ねぇだろ」
「私?!」
もちろん私の意思などは関係なく、緑谷くんの静止も聞かずに爆豪くんはそのまま私を引きずって皆から離れていく。心なしか芦戸さんと葉隠さんがうきうきした表情でこちらに手を振ってくれているのが気になるんですけど。あああ絶対なんか勘違いしてる!違うよきっとこの人便利な荷物持ちくらいにしか思ってないよ!梅雨ちゃんも微笑ましい顔してる!?嘘でしょ?!必死の目の訴えも空しく、どんどん皆が遠ざかっていく。助けてよヒーロー!いや私もヒーローなんだけど!




無言でエスカレーターに乗り、2階のフロアをずんずん進んでいく。というかそろそろ手を離してくれないと服の襟が伸びまくりなんですけど。すれ違う親子連れに怪訝な顔をされたのでとりあえず笑っておいた。視線を逸らされなかったのが唯一の救いだ。ほら見てよ、変な奴だと思われてるじゃない。
「あの、どこまで行くんですかね」
「ア?靴買いに行くんだろが」
「爆豪くんも靴を買いに?」
「違ェわテメェんだ」
「どういう…?」
そのまま会話を打ち切られ、たどり着いたのは靴専門店。爆豪くんがどういう理由でここまで引っ張って来たのかはわからないが、とりあえず成り行きで私の目的は達成されつつある。
さて、靴である。ランニングシューズの目利きなどできるわけがない。優柔不断な私のことだ、散々迷って何も買わないか、全く別の靴を買うか、そんな行く末がありありとイメージできる。無限に時間が消費されるし、何より私は今日一人ではない。爆豪くんを待たせるなんて怖いことできるわけがない。とりあえず各々欲しいものがあるはずなのでここで解散…というわけにはいかないのか。そういえば団体行動を言い渡されているんだった。二人になったけど。一体どうしたら。
「テメェ、足のサイズは」
「は?」
「はよ言えや」
「に、23.5ですけど」
「フン」
答えを聞くや否や、ずんずんと店の奥へと入っていってしまった。何気に誕生日に続いて靴のサイズまで把握されてしまったのだが。どういうことなの?
考えていても仕方がないのでレディースの棚を眺めていく。季節が過ぎたので半額になっていた秋靴の一角でスクエアトゥーのパンプスが目に留まる。細いストラップの付いた踵の低いやつ、かわいいな。来年用に買っちゃおうかな…と既に目的を忘れている私の頭上に靴が降ってきた。
「痛い!…えっ、なにこれ」
「これにしろ」
爆豪くんが差し出してきたランニングシューズは聞いたことがあるスポーツメーカーのもので、作りもしっかりしていた。私が好んで買う3000円くらいの運動靴とは比べるのも烏滸がましいほどだ。勿論それなりのお値段が札に印字されていたが。
「へぇ~かっこいい。でも、ちょっと高いな…私の予算だと」
「アァ?使い倒すつもりの靴だろうが。値段それなりの物買わなきゃ余計かかンだよ。つべこべ言わずに履いてみろや!」
すすめるというよりはもはや強要であったが、渋々履いてみると足底はピッタリとフィットし、軽いうえにクッションとなる素材が良いのか動きやすい。
「わ、ほんとだ。いいね、これ」
「だから言ったろうが」
ほらみろ、と自信満々に言い放つ爆豪くんは置いておいて。こうなれば買わないという選択肢はなくなった。お財布の中身は心許なくなるが、卒業まで使うつもりで大切にしよう。さようならかわいいパンプス、来年会いたいね…。いそいそとレジで会計を済ませると、爆豪くんも同じ店の袋を持っていた。あれ、いつの間に買ったんだろう。
とりあえずの目的は達成され、時間は15時少し前。女子の皆がいればスイーツの店にでも行っているところだが、生憎私の隣におわすのは爆豪くんなのでそんなイベントは発生しない。グッバイ季節のパンケーキ。
「じゃあ用は済んだし、みんなと合流しようか」
「断る」
間髪入れずにNOの返事。聞き間違えであるはずがない。そうだ、この人団体行動ができないんだった。だったら何でモールに来たのとはツッコミたかったが、先生に言われてしまったら行かざるをえなかったんだろう。ぶすくれた表情でてこでも動きそうになかった。というか爆豪くんが移動してくれない限り私もここから動けないんだけど?
何気なくフロアガイドを広げながら次の目的地候補を見繕っている間、隣に居た彼はというと目の前の通りに睨みを効かせることに精を出していた。




妥協案として目の前にあったコーヒーショップへと誘ってみたら意外すんなり付いてきたので、とりあえず時間を潰すことにした。店員さんがこちらが季節メニューですと勧めてくれたのも気になるけど、無難にいつも頼むものをチョイスする。
「カフェラテ、ホットで」
「ホットコーヒー」
後ろから被せる様にオーダーが追加され、私がもたもたと財布を出している間にスマートに会計まで済まされてしまった。こういうのも才能っていうの?ずるくない?奢られるのは癪なので、商品が出てくる間にお金をぐいぐい押し付けたら舌打ちしながら受け取ってくれたのでよしとする。
二人分のドリンクをトレーに乗せ、テーブル席は埋まっていたので窓際のカウンター席に座る。爆豪くんもその隣に陣取った。
「コーヒー、ブラック派なんだ」
「砂糖ぶち込むくらいなら塩入れた方がマシだわ」
「それはどうかなぁ…。あ、そういえば爆豪くんは何買ったの?」
「別に」
「言えないような品?」
「アホ面と同じクソみてぇな思考回路してんな」
「えっ、電気と同じレベルなんてやだな」
なんでもない雑談をしつつ、今更のように爆豪くんの服装を盗み見る。ヒーロースーツと同様、彼は黒い色を好むようだ。白いシャツに黒い上着を重ね、その上にこれまた黒のフーデッドコート。下も黒いパンツだったがいつも通りの腰パンで、ウォレットチェーンがついている。夏の頃寮で着ていたアジフライTシャツみたいな気の抜けた感じもいいけれど、今日のようなカジュアルでスマートな感じもかっこいいな。と、上に視線をずらすと赤い色の瞳とぱっちり目が合った。
「何見てんだ」
「見てません」
「嘘が下手すぎんだろ」
「正直な生き物なので」
「なら嘘つくんじゃねぇわ」
正直に見てたって言っても怒るくせに、とは思ったが言わない。地雷原は踏み荒らすものではないのだ。半分くらいになったカフェラテを喉に流し込む。
「言い忘れてたけどさ、」
「あんだよ」
「仮免合格おめで…………」
続く言葉は爆豪くんが急にそちらに目を向けたことで中断された。ふと、店のガラス越しに不審な人物が映る。
モールの楽しい雰囲気とはかけ離れた異質な空気。黒い服に身を包んだ普通の人間の三倍はありそうな巨体に岩のような皮膚。血走った目がギョロギョロと何かを探している。周りの人たちがその異様な姿に気付き、ざわめきながら距離をとり始める。追いかけっこに夢中になっている数人の子供を前に大きく振りかぶられた腕を見て、爆豪くんが舌打ちする。
「ヴィランだ!!!」
誰が叫んだか分からないが、そんなことはどうでもいい。助けなくては。叫び声に同調して皆が一斉に逃げ惑う。
先に飛び出していた爆豪くんに続いて、私もすぐ走って後を追った。逃げる人の肩に、荷物にぶつかりながら一点を目指す。彼は迷うことなくヴィランの方へ向かうだろうから、私は子供を確保しなくては。
「私は救助に!爆豪くんちゃんと抑えててね!」
「うるせぇ、俺に命令すんな!」
ヴィランの攻撃が子供に向かう手前、個性で天井を切り取るように分割して壁にした。それを見越したように爆豪くんの容赦ない爆破がヴィランに向けられる。膨れ上がる爆風がショーウィンドウのガラスを震わせた。壁を作ったって言っても即席なんだから、一般人を巻き込まないでよね!?そんな文句を口に含みつつ、震える大人に声を掛け、子供を抱き抱えさせる。悔しいけれど、私一人ではこの人達を全員担いで逃げる事は出来ない。
「誘導します!私についてきたください!大丈夫です!」
大人達は震えながらも必死に頷き、それを確認してからヴィランの動向を見つつ、一番近いモールの出口へのルートを決めた。咆哮と爆発。いつもの「死ね」が聞こえてきてそれだけで安心できる。私が知ってる一番強いヒーローが居るのだから、大丈夫。だから私だってヒーローになれる。壁伝いに救助者を先導する足は震えなかった。
一階に降りて出口に近づくと、一般人を伴った切島くんが誘導をしていた。その背に向かって叫ぶ。
「切島くん!爆豪くんがヴィランと交戦中、二階東フードコートの辺り、応援に!」
私が避難誘導を受け持ち、彼には爆豪くんの元へ向かってもらう。切島くんの個性は戦闘向きではないが、突出して前線向きだ。あの岩のような巨体のヴィランとも張り合える。
おう!と頼もしい返事をして階段に駆け出す背を見送る。モールの巡回プロヒーローも駆けつけてくれ、皆を連れて外へと飛び出した。

モールを出ると既にクラスメイトによって避難した人が集められていた。ざっと見渡しても重傷の怪我人はいないようだ。私は救助した人たちを任せると、また来た道を戻ろうと立ち上がる。瞬間、モールの端から爆発が起こった。周囲から悲鳴が上がる。爆発。赤い光と黒い煙が私を釘付けにする。
違う、爆豪くんじゃない。彼の爆破はあんな粗雑なものじゃない。立ち上がる。走り出す。爆豪くんにヴィランを任せたんだから大丈夫。だから私も宣言した通り救助をしなければ。




それから30分程で騒ぎは収まり、ヴィランも複数ではあったが全員確保された。今回の襲撃はヴィラン連合との関わりはないらしく、危険性はなしと判断された。クラスメイトも無事集合し、とは言っても服はボロボロだったりかすり傷もあるけれど、そこは仮にもヒーローなので見なかったことにする。
爆豪くんも仕留め損ねたわクソが!と吠えているだけでピンピンしている。上着がちょっと焦げていたが本当にかすり傷が少しあるだけである。切島くん曰く、最後に駆けつけた緑谷くんと轟くんが追い詰めたヴィランを捕まえたらしい。なるほどそれでキレているのか…。

とりあえず帰るか、と誰からともなく発された言葉に誰もが同意した。そこでふと自分が手ぶらなことに気がつく。そうだ、私今日買った靴を現場に置いてきたままだ。モールはまだ現場検証のバリケードが敷かれたばかりだし、そもそもの靴の安否が不明である。どうしたものかと思いつつも、とりあえず挙手をしておく。
「あの、私荷物置いてきたまんまで…モールが開くまでここに残っていい?」
「残るのは構わんが、一人ではいかんな。誰かと一緒でなくては」
「ですよね…」
委員長の主張は正しい、しかし皆疲れているのに残ってもらうのは申し訳なさすぎる。と、私が思案している間に男子の間でじゃんけん大会がはじまった。そんな罰ゲームみたいな扱い余計申し訳ないんだけど。歓喜するクラスメイトの中、チョキを出した緑谷くんが項垂れている。なんかごめんね…。
ところがその時、思わぬところから声が掛かる。
「…俺が残る」
「えっ」
「鞄放ってきたんだわクソが。テメェと同じとこにあんだろ」
「あ、そっか」
そういえば爆豪くんが背負っていた黒い肩掛けバッグが見当たらない。あの一瞬でいつの間に。
「つーわけで勝手に散れやモブども」
「言い方!」
「じゃあ、爆豪頼んだぞ!」
「ちゃんと二人で帰ってきなよ〜」
「うるっせえわ、さっさと行けカスども!」
皆が連れ立って駅へと向かう姿を見送る。緑谷くんと梅雨ちゃんが心配そうに振り返っているので殊更元気に手を振った。
さっきまで誰かに残ってもらうのは申し訳ないと思っていたのに、今は隣にいるのが爆豪くんでよかったと思ってしまう。なんだか変、と一人で頬を緩ませていると、
「何一人でニヤニヤしてやがるクソキメェなこのブス」
ノーブレスで罵倒された。私でなかったらキレてるぞ。




最適なヒーローが居たようで、現場検証が終わったのは17時過ぎだった。許可をもらって静まり返ったモールへと足を踏み入れる。所々電気が落ちていたが大部分は明るいままで、すぐに二階の目的地に辿りつけた。爆豪くんの鞄も私の靴もちゃんとそこにあったので無事回収する。
鞄を肩に掛けた彼がぶすっとこちらを見ているので、何?と聞いてみる。
「ちったぁ動けるようになったじゃねえか」
「ん?」
「俺にクソ偉そうに命令しとっただろうが。殺すぞ」
「あ、あ〜。なんか咄嗟に、うん」
そういえば飛び出したときに夢中で口走ったことを思い出す。いや連絡事項だから、命令じゃないし。
あれ、でも、今のちょっとだけ褒められた感じ?私の気のせい?さすがに聞き返すことはできなくて、私の中で良い方に解釈することにした。また頬が緩んでしまう前に気を引き締める。
この時間なら帰っても門限ギリギリということはない。ゆっくり帰れるなと呑気なことを考えつつ、爆豪くんの少し後ろをついて歩く。
「あの壁作るやつ、セメントスのやつだろ」
「そう!わかった?!なんなこう防御系に応用したらいい感じに…」
「うるせぇ」
ぴしゃりと浮つく熱弁を止められて立ち止まる。そっちが言ってきたんじゃん!理不尽!




帰りの電車は丁度座れる席があったので座らせてもらうことにした。爆豪くんは座る私の前で吊革を握る。隣、空いてるよと言ってみたが無視された。
緩やかに電車が発車する。夕方の日差し、車内の温度が心地よく、程よい睡魔が襲ってきてうつらうつらと船を漕ぎだしてしまった。こうなると眠気には勝てない。
完全に寝てしまったと気付いたのは下車駅の一つ前に付いた頃。寝過ごしたかと思って一瞬青ざめたが、ホームの駅名を確認してほっと胸を撫で下ろす。そういえば立っていたはずの爆豪くんの姿がなくなっている。どこ行ったんだろう。ふと、右肩に重みを感じてそちらを確認する。うわ。
「寝てる…」
隣に座り、腕を組みながら私の肩に頭を預けて眠っている。あの爆豪くんが。思わず緊張で身体が強張る。深く寝入っているのか、少し動いたくらいでは目覚めなかった。
これ幸いと表情を盗み見る。眉間の皺はいつもより薄く、吊り上った目も瞑られていれば刺々しさはない。ツンツンした髪が首に当たってくすぐったかった。そういえば爆豪くんの髪はどんな感じなんだろうと想像を膨らませていた頃のことを思い出す。想像よりずっと柔らかくて、刺さることはない。これはとても重要な発見だ。心のメモに記す。欲を言えば指で触れてみたかったが、眠れる獅子を起こすのは賢明ではない。今日の労いの意味でも肩を貸すくらいならやすいものだ。
車内アナウンスが次の駅を読み上げていた。あと数分しかない。名残惜しいが彼の腕を叩いて目覚めを促す。どうかどうかその場で爆発しないでくれと祈りながら。辛抱強く続けると小さく身じろぎし、目が薄く開く。
「おはよ、」
「……………あ?」
寝ぼけているのか薄目のまま見上げてくる。見たことない表情……は一瞬だけだった。完全に目が覚めたのか、すぐに眉間にしわが戻った。寄りかかる重みもなくなって、強張っていた肩の力が抜けた。彼がわしわしと頭を掻くと、少しだけついた寝癖が目に留まる。
私も爆豪くんも無言のまま、電車は静かに停車した。
ホームに降りると車内との温度差に震える。同時に大分目が覚めてきた。前を歩く背に向けて今日のお礼を言うと、振り向いてはくれなかったけど「はよ来いや俺ァ眠いんだよ」という苦言を頂いたので急いで彼を追った。

(2020/6/6) <PREV▼ TOPNEXT >