「恋人」の構文は難解

 11 |熱があふれる話

「終わったよ〜!」
「おっっっせぇわ!こっちはもうとっくに終わっとんだ!はよ報告あげろ!」
爆豪くんのヒーロー事務所が開所して一週間。初めこそ気を張っていたものの、ンなガチガチでどうすると雇い主に容赦なく背中を蹴飛ばされてからは大分気が楽になった。
今日は切島くんとペアでパトロールを回って、二件ほどの些細な問題を解決した。現状の日本で海外のような凶悪ヴィラン頻発など早々なく、暇を持て余している爆豪くんは報告書提出を日々催促するのが日課となっていた。そんなに暇ならパトロールでもしていればいいのに、とはここの事務所長様には言えない。
「新しい事務所も順調だな!さすがバクゴーって感じだぜ!」
「うん、二人も頑張ってくれてるしね」
「お前もな!」
遠慮なくバンバンと背中を叩かれて思わず噎せ返った。切島くんは機嫌のいい時は力加減を誤る。悪ィ!という謝罪も勢いが良くてつい許してしまう。だから直らねぇんだと爆豪くんはいつも小言を漏らしていた。




なんだろう。頭がぼうっとして、顔が熱い。自分のデスクで報告書を書きながら、しかしさっきからペンは動かない。何を書こうとしたのか、思い出しては溶けるように忘れる。それを繰り返している。
爆豪くんに風邪ひいたことないと豪語したくせに、まさか今になってひいてしまったのか。いや、でも寒気は感じない。くしゃみも鼻水もない。ただただ、熱い。
瀬呂くんは早々に報告書を提出していった。切島くんも一度出した報告書を爆豪くんに目視でダメ出しされて、頑張って直して帰っていった。だから事務所にはもう私と爆豪くんしか居ない。
皆の書類を纏めている彼はまだデスクにいる。早く終わらせなきゃ、その一心でまたペンを握り直したのに、やっぱり何も書けなかった。
「何やっとんだ」
「…わかんない。ずっと、あつくて、」
いつのまにかデスクの隣に立っていた爆豪くんにも気付かなかった。書類が全く手付かずなことを認めた彼は、グローブを外した手のひらを私の額に当てた。触れられたところがなんだか心地良い。
「おいブス、今日とっ捕まえた奴の個性は」
「えーと、煙を発生させる奴じゃなかったかな」
「一匹だけか」
「ううん、もう一人居た。そっちは、分からないな…」
私の答えを聞いた彼は、スマホを取り出してどこかに連絡し始める。事務所を始めてから、爆豪くんが驚くほどに色々なところに根回しやコンタクトを取っていたことを知った。おかげで摩擦らしい摩擦もなく、円滑な業務ができている。
「…爆豪だ。今日、ウチの事務所からそっちに渡した奴らの個性、教えろ」
捕まえた奴の引き渡し先、ということは警察かな。彼が連絡を取り合う間もどうにか報告書を進めようと努めるものの、やはり一文字も書けなかった。
隣にいる爆豪くんの声が気になって仕方がない。ただ通話してるだけの声なのに、妙に耳に近いところで聞こえる気がする。耳に息を吹きかけられたようなくすぐったさと、胸に湧き上がる息苦しさ。やっぱり風邪ではない気がする。
通話を終え、赤い目が薄く引き攣った。これは、多分嫌な方の個性だったんだな。
「…今日てめぇが捕まえた奴。そいつの個性『催淫』だわ。厄介なモンかけられやがって、クソが」
「さい、いん」
言葉に出さなくても分かる。つまり私が今、目の前の爆豪くんに触れて欲しいなと思っているのもその個性のせい。いや、自分の願望も混ざっているんじゃないかとも思う。
「帰るぞ。書類は後だ」
「うん、」
「着替えて来い。五分出てこなかったら入るかんな」
力無く頷いた。のろのろと席を立って更衣室へと向かう。着慣れたヒーロースーツを脱ぐ間も、頭の中は爆豪くんの優しい手のことで頭がいっぱいだった。
一緒に暮らし始めて、触れ合うことは確かに増えた。けれどそれは頭を叩かれたり、頬を伸ばされたりという些細なもので、肌を触れ合わせるようなことは何一つない。
私は彼が言い出すその時を待っていた。悶々とした心の内の欲望をぶちまけられた日から、それほど待つことはないと思ってずっと覚悟は決めていた。相手が忍耐の男だということをすっかり忘れて。




近くにいれば爆豪くんの匂いが鼻をくすぐる。事務所を出た時はちゃんと自分の足で歩けていたのだ。けれど、マンション近くになって急に力が抜けてしまった。倒れそうになった身体を支えてくれる爆豪くんは鋭く舌打ちをする。不機嫌になる彼とは正反対に、私は温かい腕に身体を預けたくて仕方がなかった。
「オイ、気張れや!放り出すぞてめぇ!」
「うん、頑張る…」
厳しい言葉を投げつつも、手放さないでいてくれる。その叱咤に押されて、私もよたよたと歩いた。なんとか家まで辿り着いたけれど、玄関に蹲った途端にもう一歩も動けなくなってしまった。
「おい、」
「も、むり、」 
「立てねぇんか」
返事ができなくて頷けば、舌打ちとともに一気に担ぎ上げられた。肩に私を乗せたまま、どかどかと廊下を進んでいく。その揺れに身を任せながら、内側から燻る熱はどんどん増していった。
寝室へと辿り着くと乱暴にベッドに放り出された。上質なスプリングが私の身体を受け止めて軋む。
ベッドに私を放置したまま、爆豪くんは部屋を出て行こうとする。何とかここに留まってほしくて名前を呼んだ。のに。
「どっかのクソ個性に負けたテメェをどうこうするわけねぇだろ」
「負けたって…」
「るせぇ、負けてんじゃねーか!解けるまで耐えてろ、ボケナス!」
無情にも扉は閉じられ、私はベッドに一人取り残されたまま。なんとか身をよじって体の向きを変えていると、シーツや枕から甘く酔わせるような匂いがした。爆豪くんの匂いだ。
それらを手繰り寄せてかき集めた。触れられる範囲にあったものを全部両腕で抱え込んで蹲る。身体が自分のものじゃないみたいに、もどかしい気持ちになった。
爆豪くんが少しでも触れてくれないかなぁと思っていたけれど、現実はこんなものだ。扉一枚隔てて、私を置いていってしまった。きっと今晩はここには来ない。ソファで寝て過ごすのだろう。
少しだけ冷静になって考えてみた。例えば爆豪くんが万が一、いや億が一、どこかの誰かの個性で催淫されたとしたら、私はきっと嫌だと思ってしまう。私が引き出せなかった熱を引き出した、どこかの誰かに嫉妬する。爆豪くんが耐えろって言ったのは、きっとそういうことなのだ。




熱い、苦しい、熱い。耳たぶから足のつま先までが全部熱を持ったように熱い。下腹部はお腹がぽっかり空いたみたいで、そこを埋める何かを欲してたまらない。
何分、いや何時間か経ったのだろうか。まだ辺りは暗いから夜は開けていないはず。扉の隙間からリビングの明かりが薄く漏れている。爆豪くんもまだ寝ていないみたい。回らない頭で、いっそここから出て行って彼を襲ってしまおうか、なんて馬鹿げたことも考えたりした。きっとその前に首根っこ掴まれてベッドに括り付けられる方が先な気がした。
ドアの向こうで足音がした。次いでドアが開く。暗い部屋を覗き込んだ爆豪くんは寝巻きに着替えていた。手にはミネラルウォーターのペットボトル。様子を見に来てくれたのだろう。
「おい、生きてっか」
「…うん」
動くことはできなかったけれど、かろうじて返事をした。ベッドサイドまで来た爆豪くんは、私に目線を合わせるようにしゃがみ込んで言った。
「一晩経てば解けるとよ」
「…うん」
「…ひでぇ顔」
「…ゔん」
水飲むか、なんて優しい声をかけられて、頷かないわけがなかった。のろのろと身を起こして喉を潤した。少しだけ楽になった気がする。
「爆豪くん」
「ンだよ」
「………この個性が解けたらさ、」
私の言葉を聴き逃すまいと、彼が顔を近づけてくる。その耳に届くように、私は私の願望を暴露した。
「キスしたい、です」
暗い部屋の中で、まん丸になった爆豪くんの目が面白くて、思わず頬が緩んだ。それをどう思ったのか分からないけれど、訝しげに眉を寄せた彼が「頭イカれてんのか」と言ってくる。
「イカれてないよ…だめ?」
「…ダメとは言ってねぇ」
「うん、………それとね」
「おい、まだ何かあんのかよ」
言ってもいいものか、と、この際もう言ってしまえがせめぎ合ったのは一瞬のこと。目の前にいる爆豪くんに触れたい。その欲が他の思考を全て頭から押し出してしまっていた。
「ちゃんと、ゴムつけて、最後まで、しよ」
私の言葉を受け取った爆豪くんは今度こそ固まってしまった。そんな彼を瞼の裏に収めて、再びじっと耐えるように身体を丸めた。もう顔を見ることはできなかったけれど、しばらくの静寂のあと、クソ、と心底苛立たしげに呻いてドスドスと足音を立て部屋から出て行ってしまった。
きっとまた彼の計画とやらを崩してしまったのだろう。それは申し訳ないとは思うけれど、私だって言われてない事を察することは出来ない。だからこの際、待つことをやめようと思った。それだけのことだ。




一夜明けて、朝には篭り続けた熱は消えていた。個性が解けたのだろう。様子を見にきた爆豪くんにその旨を伝えると、近寄って1番に頭を叩かれた。ご迷惑をかけましたと頭を下げる。
「もうなんともないよ」
「なんともあってたまるかボケ」
「はは、そだね」
私の言葉の真偽を確かめるようにじっと見ていた赤い目は、ややあってからひと瞬きをして。私も同じように瞬きをして、瞼が開いた時には爆豪くんの顔はもう目の前だった。
唇が触れる。上唇を少し食むだけのキスはすぐに終わってしまう。たったそれだけのことだったのに、昨日からずっと触れて欲しいと思っていた私の心は一瞬で潤ってしまった。
「覚えててくれたんだ」
「忘れてたらしばいとるわ」
「ね、もう一回」
「…その前に、飯。てめぇブッ倒れんぞ」
あぁ、そういえば昨日から何も食べていないのか。ちょうど良くぐぅ、とお腹が鳴った。なんとも自己主張の強い腹の虫が恨めしい。
私を置いて先に行ってしまった爆豪くんの後を追うべく、ベッドから抜け出した。大分体力を消耗したのか、少しふらついて部屋を出る。キッチンでは電子レンジが操作される音がしていた。
「昨日の分残してある。それでいいな」
「うん。ありがと」
「…あと、」
テーブルについた私の前に小さなパッケージの箱が一つ投げ込まれた。箱自体は見たことのないものだったけれど、書かれている文字でなんとなく分かってしまった。コンドーム、だ。
「てめぇに指図されたからじゃねぇ。俺が俺の意思で買ったんだかんな」
「わかってるよ」
「…飯食ってからでいいんかよ」
「うん」
「風呂、沸かしとく」
「爆豪くん」
こういう時、なんて言ったらいいんだろう。ありがとう?それとも嬉しい?ムズムズする心の内を表す適当な言葉が見つからなくて、続く声は出なかった。
何のために呼んだんだ、そんな顔をした爆豪くんは風呂場の方へ入って行った。それを見送った私はテーブルに突っ伏した。今誰も見ていないけれど、物凄く頬が緩んでいたからだ。キッチンからレンジの音が響き渡ったのはそのすぐ後のこと。




「なんか、初めてじゃないのにすごくドキドキする」
「部屋が違ぇからだろ」
「そうかな。そう…なのかな」
「…どうでもいンだよ、そんなこたぁ」
ベッドの上、私と向かい合った爆豪くんは同じように緊張しているように見えた。久しぶりな素肌同士の触れ合いは、お互いを強く意識させる。触れられたところから熱を帯びて、じわじわと侵食されていく。昨日あれだけ欲していたものが与えられている。
「ばくご、くん」
「指、入れっぞ」
甘くぬかるんだ所に指が挿入され、ぐいぐいと拓かれていく。異物感はあるけれど、それより爆豪くんの指が私の中にあるという事実の方が余程落ち着かない。
長い指が私の中を丁寧に開いて、擦って、その度に爆豪くんの肩口で声を上げた。前に探り当てた中の弱いところを彼はちゃんと覚えていて、そこをゆっくり指の腹でなぞる。その度にびくびくと身体を震わせれば、爆豪くんがこくりと生唾を飲み込んだ。
「声、やべぇな」
「し、下の部屋に、聞こえちゃう…?」
「ちげぇ。……シモにクるっつってんだ」
「や、あ、あっ、」
更に強い刺激に首を振る。顔を見られたくなくて強くしがみ付いているから、爆豪くんの匂いが強くなってクラクラする。のぼせそう。
「…二本目、入れっからな」
「ん、んんっ」
「…痛くは無ぇんか」
「んあ、あ、だい、じょぶ」
圧迫感が増して、でも最初に入ってきた時よりは変な感じじゃない。必死に頷いて正直に答えると、爆豪くんが嬉しそうに笑っう気配。
「は、飲み込みがはえーな」
「だめ、も、イっちゃ、」
「一回イっとけや」
「あ、あ、」
敏感な一点を丹念に撫でられて、下腹部に集められた快感が一瞬で弾けた。詰めた息が苦しくなって、短い呼吸を繰り返す。
中にあった指はいつの間にか抜かれていて、かわりに口腔に熱い舌が入ってくる。まだ息継ぎがうまく出来なくて、一度口を離して息を整えて、そしてもう一回。舌の裏を丁寧に触られるのが気持ちよくて必死で爆豪くんの舌を追った。
「まだへばんじゃねーぞ」
「うぅ、やだ、」
「やだじゃねえ、気張れ」
「もう、ゆび、やだ、」
「やっとかねぇと俺が入んねンだよ!」
懇願は聞き入れてもらえず、またグズグズになった中に指を入れられる。敏感なところへの刺激も勿論だけど、いちいち耳元で囁かれてクラクラする。
中を拓くように念入りに、慎重に指が侵食してくる。わざとしてるんじゃない、って思うくらいに耳に入るぐちぐちという水音は本当に私の中からしているの?わかんない、もう気持ちがよくて、痺れちゃう。おかしくなっちゃう。
「爆豪くん、も、いい、もう、いいからぁ、」
「ん、」
スキンのパッケージを破り、興奮した陰茎に装着する間も、爆豪くんは荒い息を静ませながらずっと私を見ていた。だから目が離せない。離すな、とも言われていないのに、見ていなければいけない気がした。
赤い色の奥に光る熱があった。湧き上がるマグマのようなその熱は、私しか見ていない。私をずっと離さない。
「口、開けろ」
薄く開いた口に噛み付くように口付けられ、差し入れられた情熱的な舌が私を翻弄する。重なった唇が柔らかくて、息が苦しくなっても夢中で合わせた。
「…入れっからな。全部俺のモンにする」
「あれ…、まだ爆豪くんのじゃなかったんだ?」
「るせぇ…こっからはマジだわ」
いつになく真剣な物言いに、こちらも緊張する。
慎重に先が充てがわれて、ゆっくりと爆豪くんが私の中に入ってきた。緊張した私の顔色を確かめながら、段々と深いところまで。あれだけしつこく慣らされたというのに、想像していたよりずっと大きくて苦しくて、受け入れる私はいっぱいいっぱいで。
無意識に息を止め強張ってしまっていた身体を解くように、優しい手が撫でたりさすったりしてくれる。
「…痛ぇか」
「んん、平気…。爆豪くんは…?」
「クソ熱くて溶けそうだわ」
彼の頬から伝った汗が滴になって私の首筋を濡らす。何より爆豪くんの満ちたような表情に目を奪われて、確かに溶けそうだ。
中学生の頃の私だったら、好きな人に好きだと言われたいなんて夢みたいなことを思っていただろう。けれど、今の私は違う。好きだなんて、言葉にしてくれなくてもいい。不器用ながらにもこんなに大切にしてくれる爆豪くんに、これ以上何を望むというんだ。
不意に涙が出てきて、次々と雫になって止まらなくなる。また爆豪くんが労わるように大きな手で頬を摩ってくれた。
「…そろそろキチぃ、動くかんな」
「大丈夫、ちょっとくらい無茶したって壊れない、から」
「…っ、人が手加減してやっとんだから素直に受け取っとけや、ボケ、」
最初はゆっくり確かめるように。徐々にペースをあげて熱い質量がぐんぐんと私の中を拓き、馴染む形に変えていく。手加減はされていると思うのだけれど、初めてのことだから私の方だって流されるがままだ。
「はっ、やべ、」
「あっ、なに、」
「クッソ…ンだこれ…、…クソ、」
そんな、クソって二回も言わなくても。その表情だけで十分わかるよ。ぎゅうっと眉を寄せて、頬を上気させて、必死に私を求めてくれる。なんなの、その顔。
「爆豪くん、」
「あ?」
「かわいい」
「あ゛ぁ!?」
「かわい………、あ」
思わず本音が出てしまって、かわいいと思っていた顔が般若側になってしまった。しまった。あんな表情を独り占め出来たのに、なんて勿体無いことをしてしまったんだ。
「てめぇ、上等だわ。もうちっと気張れや!」
「や、なに、やあっ!」
少しだけ乱暴な扱いが戻ってきた爆豪くんは、私の両脚を持ち上げて拓かれていなかった一番奥まで強引に押し入ってきた。不意な熱と快感に堪らず身体を震わせていると、確信犯はどうだと言わんばかりに舌舐めずりをする。これ以上はないと思うくらいぴったりと奥の奥で繋がった結合部を見て、身体が歓喜に震えた。
「はっ、クッソあちぃ…」
「う、爆豪くん、」
「…今度は何だよ」
「ほんとに、全部、入っちゃ、」
「おぉ、入ったわ。…おら、見えんだろ」
「や、もう見せないでいいから、はやく」
「っ、おい、てめっ、」
焦れた私がシーツの上を踠いて腰を引こうとすると、瞬時に力強い腕に引き戻された。勝手に動くなと轟々と注意されてしまったけれど、動かないままだとどうにも落ち着かない。だってゴム越しとはいえ、繋がっていることは感覚でダイレクトに伝わってくる。爆豪くんの陰茎が解放を求めて波打つのがわかるように、私の方も爆豪くんを離さないように求めて止まないのがわかってしまうんじゃないかと思うと気が気ではない。
仕切り直しだと言わんばかりに、もう一度奥まで深く挿入される。質量を保ったままの剛直が私の弱いところを擦り、思わず上ずった声が漏れた。私を見下ろす赤い目の獣が、低く唸った。
「…どうすっか」
「っ、なに?」
「一回じゃ済まねぇかもな」
「え、」
それは、どういう意味?と問う間も無く、勢いよく腰が打ち付けられた。その衝撃と痺れるような快感は続けざまに与えられ、必死にしがみ付くものを探してしまう。咄嗟に掴んだシーツはなんとも頼りなく、私の身体は力強い動きに容赦なく揺さぶられた。
快感の上限が際限なく上書きされていく。言葉にならない呻きが口をついてうわごとのように漏れ出ていった。もはや自分が何を口走っているのかもわからなくなって、ふるふると首を振った。あつい、あつい、とけちゃう。
「や、も、だめ、しんじゃう、う」
「は、死にゃしねぇわ、」
「ば、くごう、くん、」
「あ?」

「…すき、」

一言、たった一言。爆豪くんが息を止めた。
そういえば、初めて言ったかもしれない。今の今まで、好意を直接的な言葉で伝えたことがあっただろうか。いっぱいになった思いが溢れて、つい口からこぼれた言葉は、しかし思いのほか効果があったようで。
じんわりとお腹があつい。スキン越しでもわかるくらいの熱が中から私を溶かしてくる。さっきまでの荒々しい揺さぶりはとっくに止まっていて。あれ、もしかして、これ。
「…………てめぇ、」
「わ、私のせい?」
耳まで真っ赤になった爆豪くんが、顔を上げた。悔しそうに顔を歪めた彼は、しかし私に何かし返さないと気が済まなかったようで、お腹に篭った熱を強く意識させるようにゆるやかに腰を揺らしてくる。
「う、やだ、うごいちゃだめ」
「っせぇ、」
私の抵抗を遮るようにまた口を塞がれた。誤魔化すような荒っぽいキスも好きだなぁ、なんてぼんやりと。
ゆっくりと陰茎が引き抜かれていく。息を落ち着かせながらシーツの上で目を閉じ、事後の余韻に浸った。まだ爆豪くんが中にいるような気がする。形容しがたいむず痒さに少しだけ背を丸めていると、にわかにベッドが軋んだ。私が動いたからではない。目を開ければ、不満顔の爆豪くんが私に覆いかぶさっていた。
「おい、」
「…なに?」
「もっかい、させろ」
「え、」
「今度は先にイかす。あとてめぇは口閉じとけ喋んな」
「そんな、無茶な」
「うるせぇ!」
多分、負けたことにはしたくないのだろう。私だって夢中だったんだし、これはもう勝負とかそういうのじゃないんだけどな…。
正直、体力的にはもうとっくに限界を越えていた。瞼が落ち、今にも寝てしまいそうなくらいには。でも、爆豪くんの挑発的な目を見てしまったら、もう受けて立つしかないじゃない。
「…ん、いーよ」
私が許可するや否や、パッケージを開ける動作は早かった。新しいスキンをつけて、再び挿入された熱は先程と同じ形で私を翻弄する。二度目ともなると何かしらコツを掴んだようで、さっきより的確に私の弱いところを攻めてくる。
あ、またあのかわいい顔になってる。今度はずっと見ていたいから、かわいいなんて口走らないように気をつけて。けれど、そんな顔をさせるくらいに、私は彼を満足させられているのだろうか。
「んっ、ねぇ、」
「あ?んだよ、」
「わたしの、なか、きもちい、の?」
純粋な疑問を投げかけてみれば、眉間にぎゅっと皺を寄せて、両脚を乱雑に抱え直された。深く深くまで挿入されたまま腰を前後に揺すられて、一番奥が歓喜に震えるのがわかる。外も中もずっと熱い。そして爆豪くんの視線はもっと熱い。
「ずっと突っ込んどきてぇわ」
「っ、そんなに?」
「つか余計なこと考えてんじゃねぇわ。舐めてんじゃねぇぞ、絶対にイかす。イかしころす」
「うわ、まっ…そこだめっ!」
押し付けるように擦られて思わず悲鳴を上げた。もう私の身体は知りつくしましたと言わんばかりに丁寧に弄ばれる。けれど、なんだかんだ言いつつキスをして、私が辛くないように体位を変えてくれる。体力の限界を迎え眠ってしまうまで、爆豪くんはずっと私を離さなかった。




翌朝はいつもより遅い時間に目が覚めた。広いベッドには私一人だけ。遮光カーテンは閉じたままで、隙間から光が射している。それをぼうっと眺めていると、部屋のドアが開く気配がした。
「起きたんか」
「…おはよ」
ぺたぺたとスリッパの音を響かせて爆豪くんはベッドの近くまでやってきた。
「身体、辛いか」
「ううん、大丈夫」
「……火傷」
「なに?」
腰ンとこ、と消え入るような声。なるほど、さっきからどうも気になるのはそれか。上着を捲ってみれば、確かにほんのり赤くなっていた。昨日は夢中で気が付かなかったけれど、快感を追うあまり彼の手から個性が少し出てしまったのだろう。
「冷やしたから跡にはなんねぇ…と、思う」
「いいよ。爆豪くんのつけてくれた跡なら、プレミアつきそうだし」
「良かねぇだろ…」
「じゃあ今度する時は、爆豪くんの手、縛っちゃう?」
「……………束縛される趣味はねぇ」
今度、と言った真意に気づいてくれたのか、彼は苦い顔をした。これくらいのことでもうしないなんて言うわけないのに。
私の具合を確かめるように伸ばされかけた手を、捕まえて引き寄せた。柄にもなく心配そうに見てくるから、「大丈夫」だってちゃんと宣言して。
「私、好きだよ。爆豪くんの手。優しいもん」
「そうかよ」
泣いてるような笑っているような、微妙な雰囲気。不安にさせないようにしたいのに、どうもうまくいかないな。けれど、こんな表情をさせるのは私だからなのだと思うと、途方もなく嬉しくなってしまう。そんなことを考えてると言ったら、この人どんな顔をするんだろうな。
「今日出んのか?」
「うん。あの報告書出さなきゃでしょ」
あぁ、と爆豪くんは思い出したように呟いた。丸一日置き去りにしてしまったから、今日こそ書かないと忘れてしまいそうだったのだ。事務所長さんの手を煩わせないようにね、と言えば、その前に下らねぇ個性にかかるんじゃねぇという正論をぶつけられた。精神ダメージに項垂れた私を放置して、爆豪くんはさっさとリビングに戻ってしまった。
寝室から出ると、ふんわりと美味しそうな匂いがした。飯出来てっぞ、の声に嬉々としてテーブルにつく。皿を並べ終えた爆豪くんも向かいに座った。私がいただきます、と言えば向かいからも「っす」という声が返る。
「今日は起こさんかったが」
「うん?」
「明日は走るかんな。覚悟しとけ」
「あ、ジョギング!起こしてくれれば行ったのに!」
「…るせぇ。いつまでも起こしてもらおうとすんな。自力で起きとけ」
またまた正論を頂いて縮こまった私を、彼は鼻で笑っていた。

(2020/11/26) <PREV▼ TOPNEXT >