「恋人」の構文は難解

 6 |アメリカ二日目の夜

玄関の扉が閉じきったのが合図だった。ここに来た最初の時のように、壁に押し付けられてキスをされて。何度も角度を変えられて、かろうじて肩に引っかかっていた鞄が落ちた。どこもかしこも、触れているところが熱い。なんでこんなに熱いんだろう。
無理に引っぱられていた上着の合わせがビッと裂ける音がした。あ、一番気に入ってたやつだったのに。仕返しに舌を少し噛んでやると、すぐにやり返される。私のものじゃない柔らかな舌の肉の感触に目眩がしそう。
長い攻防のあと、唇は解放された。私が息を整えている間にも、爆豪くんは私を攻めてくる。硬い鎖骨に歯が当たって、思い切り噛みつかれた。
「っ、いった…」
最初の一回は容赦なかった。私が声をあげたからか、二度、三度目は柔らかく噛まれる。舌を噛んだのが気に入ったのか、首と、肩にもがぶがぶと歯を立てられる。なんだかこのまま食べられちゃいそうだな。なんて思っていた時。
ぐぅ、と空気を読まない腹の鳴る音がした。私のだったのか、目の前の捕食者のものだったのかはわからないけれど、なんだか気まずくなって動きが止まる。
「……そういえば、ごはん食べそびれてきたね」
ぽつりと零せば余計に空腹を自覚してしまった。私の首筋に噛みついていた爆豪くんもそう思ったのか身体を離す。そして長いため息も。気まずそうに顔を顰めながら、短く呟いた。
「飯、作る」
「うん…」
電気も付いていない薄暗い玄関で何をしようとしていたのか。改めて客観的に見て、流されるままだったことに気付く。爆豪くんがリビングに続く廊下のライトを点け、そこでようやく私達は靴を脱いだ。




麺が余ってっから、と即席でペペロンチーノを作ることになった。二人でキッチンに立つのは少し狭いけれど、なんだか離れがたかったので、どちらもからも文句は出なかった。
「お皿、これでいい?」
「ん」
大きなフライパンを軽々と振る彼はとても手際が良い。さっきまで乾麺だったパスタは皿の上でくるりと捻りを加えられ、見た目も良い一皿に変わっていた。いつもながら、さらっとやってのける才能マンだ。
「小せぇ方がてめぇのだ」
「うん。あとフォークは、」
「下の棚」
フライパンを持っていた手は、今玉ねぎを刻んでいる。ドレッシングのかかったサラダは出来るまでに一分もかからなかった。私に指示している間にメニューが一皿増えたことに、もはや驚くこともない。器用に三つの皿を抱えた爆豪くんとフォークだけ持った私はテーブルへと移動した。
「いただきます!」
「ん」
私は手を合わせて、彼は小さく返事をして。自覚してしまった空腹を満たすように夢中で口に運んだ。それは爆豪くんも同じようで、私より盛ったパスタを大口で食べていた。
「うわ美味しい!」
「たりめーだわ」
そう自信満々に笑うから、やっぱりかなわない。既に食べ終わった彼はお皿を片付け始めていた。
最後の一口分のパスタをフォークに巻き取りながら、ふと悪戯心が湧いた。さっき噛まれたところがヒリヒリしたからか、なんとなくそんなドラマのシーンを思い出したからかも。最後の一口分を彼の前に差し出した。
「爆豪くん、はい」
「あ?」
どうせ怒られるだろうな、そう思っていた。何バカなことやっとんだと叩かれるだろうと。悪戯なのだからそれでよかったのだ。けれど、目の前の爆豪くんは予想を外れて顔を近づけてきて、大口を開けてそれをぱくりと食べたのだ。
びっくりした私は言葉を無くし、ぽかんとその後を見守った。けれど頭を叩かれることも、けなされることもなく。
「あんだよ、多かったんだろ」
「いや、うん…ハイ」
皿を奪って、彼は何事もなかったようにキッチンへと向かっていった。私だけが子供みたいだ。呻きながら恥ずかしくてテーブルに突っ伏した。




バスルームから出ると、爆豪くんはリビングのソファでテレビを見ていた。バラエティとか映画じゃなくて、普通のニュース番組。私もそちらへ近づいていって座ろうと思ったのだが、彼がど真ん中に居るせいで両隣きっちり私一人分のスペースしか空いていない。何かしらの情報収集をしているのならお邪魔しない方がいいかと、しばらくぼうっと立ち尽くして同じようにテレビの画面を見ていた。
「おい」
「ん?」
「座れ」
そのスペースに収まってもよいとのお許しが出た。彼の眼は相変わらずテレビに向けられていたから、視界を遮らないように右隣に座る。やっぱり狭くて、脚がぴたりとくっついてしまったけれど文句は言われなかった。寝巻きの布越しに体温が伝わってきて温かい。画面を見れば、ニュースは国内のものから海外情勢、天気、株価へと流れていった。隣の彼は少し難しい顔をしていたけれど、テレビを見ているわけではなかったのかもしれない。
「明日、何時の飛行機だ」
視線は動かさずに爆豪くんが聞いてきた。飛行機。そうだ、私は日本に帰らなきゃいけない。
「確か19時だったかな」
「ふうん」
「寂しい?」
「しね」
その尖った言葉が放たれるのと、長い腕が私の首に回るのはほぼ同時。爆豪くんはもうテレビなど見ていなかった。その高い上背と体重でもって、私の身体をぐぐっと押し倒してくる。だから力勝負は卑怯だって言ってるのに…!最終的にソファと爆豪くんの間に挟まれて身動きできなくなってしまい、バシバシと身体を叩いて必死に抗議した。
「あだだだ!」
「てめぇが寂しいから来たんだろうが。あ?」
「うぐ、そうです…」
「フン、わかりゃいい」
重みが退いたと思えば、首に回っていた手は肩、脇、腰の方へ移動していく。そうしてたどり着いた先で、私の上着を捲った。
「な、なにしてんの…」
「あ?帰ってきた時の続き、すんだろ。…嫌なんか」
「そりゃ…嫌じゃないけど…。え、ここで?」
「俺ァ別にどこでもいい。ベッドが良けりゃそっち行く」
ご配慮をどうもありがとう。昨日の経験からして、このソファを汚してしまうのは憚られるし、何より場所が悪い。狭すぎる。
「あの、」
「ンだ」
「今日も最後までしない?」
「しねぇ」
「なんで?」
「ゴム、持ってねぇ」
必要ねぇだろ、なんて言うのだ。アメリカにいる間、誰ともそういう関係を持っていないのだと彼は言っている。私は男ではないから性事情は分からないが、爆豪くんにも人並みの性欲があることを知ってしまった矢先に、この告白。潔癖だということを差し引いても、それって私が来たからこのような問題に直面していると言っているようなものだ。
素直に嬉しいとは思うが、そのまま突っ込まれないことを安心するべきか、我慢させていることを申し訳なく思うべきなのか。複雑な気持ちだ。
「…あ、待って」
腰に回された手を解いて、ソファの隣に置いてあった鞄の中を漁る。化粧ポーチの中から四角く薄いパッケージのものを取り出して、爆豪くんの目の前に突き出した。
「ゴムって、これのこと?」
それを見て、それが何かを認識して、彼の目が変わった。赤いドロドロとした深い色に染まっていく。伸びてきた手はパッケージではなく、私の手首を掴んできた。とても強い力で。
「てめぇ、これどこで手に入れた」
「事務所の先輩。なんかあったら使えって。…とりあえず手、痛いから離して」
本当のことだ。やましい事など何もない。それから、真っ直ぐに見返してそう伝わるように祈った。
「爆豪くん、これは昨日言いそびれてたんだけどね」
「…んだよ。処女じゃねぇってか?」
「はぁ?なんでそうなるのよ。…私はそういう覚悟してここに居るから、その…あんまり我慢とかしないでねって話」
まじめに言ってて余計に恥ずかしくなってきたな。つべこべ言わずに早くこれを受け取って欲しい。そう思ってその胸に強引に押し付けた、のに。
静かにそれを手にした爆豪くんは、ゆっくりとその顔を上げた。
「………てめぇはよォ」
「うん」
「これ以上俺を引っ掻き回すんじゃねぇ!」
私の手から毟り取るように奪われたゴムのパッケージは、フルスイングで部屋の隅にあるゴミ箱へシュートされてしまった。
えっ、なに?力強く投げられたそれが、綺麗な放物線を描いて飛んでいくさまを呆然と見守った。一体何がお気に召さなかったのだろう。直後、ガバっと頭を鷲掴んできた爆豪くんの顔は完全に怒ってます、の方だった。
「ア゛〜〜ッ!!クッソがぁ!ちったぁ俺の計画に沿えや!!」
「け、計画…?」
「最初っからそうだったわ…俺はなぁ、事務所立ててからてめぇを俺のモンにするつもりだったんだよ!なのによぉ、てめぇがフザけたタイミングで付き合おうとかなんとか抜かしやがるから、俺はアメリカでずっと一人でオナってなきゃいけなくなってんだぞ?!ア?分かるか?クッッッソ惨めなんだわ!何が悲しくて女が居んのに一人でプレイしてなきゃなんねぇんだよ!!」
「そ、それは私のせいなの?」
「てめぇ以外誰がいンだよ!」
ヒートアップして唾を飛ばしそうなくらい勢いよくまくしたてられて、しかしその内容に完全に置いてけぼりを食らってしまう。
待って爆豪くん、俺のモンにするつもりだったって、その頭の中でどんな計画が成されていたの。というか、一人でって、私のこと考えながらしてたってこと…?
「じゃあやっぱりベッドの下の雑誌って、そういう用途で…?」
「ばっ…!ハァァ?!何見とんだクソブス!!!」
「わっ!だ、だって掃除してたら出てきたんだもん!私のせいじゃないでしょ!」
私のせいではない、けれど隠していたものを暴いてしまったという罪悪感は語尾をすぼませた。バツが悪そうに舌打ちをしながらも、彼はそれ以上咎めてこなかった。
「いいか、てめぇの覚悟はどうでもいい。俺はこっちで俺の意思以上のことをするつもりはねぇんだよ。ゴムがあろうがなかろうがしねぇっつってんだろうが」
「えっと…それはこういう行為にも爆豪くんの計画があるって、そういう話?」
「そう言ってんだろうが。だから煽って来んじゃねぇボケ」
「そういうつもりじゃないんだけど」
我慢はさせている、けれどそれは誠実さの裏返しということで。むすっとしながらも、自分のペースを乱したり、私を無理に暴いたりはしない。そういうところを見て、余計に愛しく感じてしまうのは仕方がないんじゃないか。
引き寄せられるようにその胸に額を寄せた。ナンバーワンを目指すヒーローに私一人の体重を預けたところでびくともしやしない。悔しいなぁと懐くように頭を擦ると、大事なものを抱えるように片腕をまわされた。
「じゃあ、今日はこのまま寝るってことで…?」
「ンなわけあるか。こっちはもうやる気になっとんだぞ」
「ええ…?言ってることめちゃくちゃじゃない?」
「るっせぇ!」
悪態とともに耳たぶを噛まれ、またソファに押し付けられた。マウントを取った彼に次々と噛み跡を増やされて、涙目になりながらせめてベッドでと懇願する羽目になって。結局、流されることに変わりはなかったのだ。




二度目だからといって何に慣れるというわけでもなく、お互いにまた緊張しながら身体に触れた。なんならキスだつてまだ慣れてないというのに。ベッドが軋む音が心を震わせる。
「私より爆豪くんのほうが胸が大きい気がする…」
「あ?気にしてんのかよ」
「ちょっとはね…。大きい方がいいって言うでしょ?」
「てめぇ、それアホ面の受け売りだろ」
「大体は」
「従う価値も無ぇ。忘れろ」
もはや下着の扱いは完璧で、私が話している間にブラのホックは外されていた。流石にそんなところにも才能を発揮されて、こちらも困惑するしかない。ベッドの下に放られた服を案じる余裕はすぐなくなった。昨日の反応を覚えているのか、それはそれは丁寧にねちっこく触ってくるのだ。
「う、うう、」
「んだよ、弄ってたらそのうちデカくなんだろ」
「わ、忘れろって言った癖に…っ!」
両方の乳房を揉みしだかれ、遠慮なく歯を立てられる。そこが弱いと分かっていて、丹念に甘噛みされるのは快感による拷問のようだった。
「…うう、爆豪、くんも」
「ンだよ」
「脱いでよ…、私だけ、全部脱がされてるの、やだ」
今の鋭い舌打ちはいい所を邪魔されたから、かな。そんな推理を立ててみた。明かりが灯る部屋の中、煩わしそうに上着を脱ぎ捨てる彼を見上げる。次にズボンも、下着も。そうして露わになった逞しい身体が逆光の中にあった。厚い胸板を張って、どうだと言わんばかりに鼻を鳴らす。
「おら、文句あっかよ」
「…ない。…、んむ」
爆豪くんのキスは押しが強い。大きな口で食まれたと思ったら、ぐぐっと舌でもって歯の間をこじ開けられる。そんなに強引にしなくても、受け入れてあげるのに。
のし掛かってくる肌が触れて、少しだけ汗で湿ってくっついて離れない。それも気持ちいいと思ってしまう。私より少し体温が高いからなのかもしれない。
蹂躙される口内の攻防に必死になるあまり、彼の手が下の方に移動したことに気付かなかった。股の間に指先が触れた時、爆豪くんが唾を飲み込み、赤い目を滾らせて笑った。
「指、入れっぞ」
「ま、まっ…」
静止の声は唇を塞がれて飲み込まれてしまった。長く節くれだった指が割れ目を探り、位置を定めてゆっくりと中に入ってくる。足を閉じようとしたのに、させまいと股の間に身体を捻じ込まれた。未知の感覚に思わず身体が強張って、よくわからないままにシーツを握りしめた。それを見越したように上から覗き込んでくる。
「おい、こっち見てろ」
少しだけ緊張したような爆豪くんの顔が映る。そう言われてもまだ怖い。頭の横に突っ張っていた彼の腕が視界の端にあって、縋るようにしがみ付く。侵入してくる指は遠慮なく、確実に内側に入ってきていた。
「痛ぇかよ」
「んん…なんか、変な感じ…、ひゃ、あっ!」
反応が微妙だったからか、陰核の方をぐりぐりと親指の腹で嬲られる。強い刺激に僅かに腰が浮き、余計に快感を得る羽目になった。
「あう、う、」
「…もっと奥か」
「ま、まだ入るの…」
「るっせー、黙っとけ」
爆豪くんは熱心に私の中を探っている。いつのまにか中指まで挿入されて、奥の奥まで暴くようにゆっくりと動いた。探る一方で陰茎への刺激も止まず、気まぐれに与えられる快感に身を震わせた。
ふと、本当に爆豪くんの指が入っているんだろうか、という疑問が湧く。ふわふわとした頭で、汗ばみ赤くなった爆豪くんの顔を見ていたら、夢じゃないかと思ってしまったのだ。少しだけ顔を浮かせて、下の方に目を向ける。股の間にあるのはどう見ても彼の手で、それが中の動きとシンクロしていることがわかる。生々しい視覚情報に、心拍数は跳ね上がった。
そしてその手の向こう側に見える、爆豪くんの熱の存在にも。昨晩はなんだか夢中なまま終わってしまったけれど、改めて見てその大きさに慄かずにはいられない。そうだ、きっと我慢してる。そう思ったら手を伸ばしていた。
指先で触れて、ゆっくりと握り込んで。その生々しさに改めて震えた。そしたら大袈裟なくらいに爆豪くんの肩が跳ねて、目を吊り上げて抗議の声をあげてきた。寸分の余裕もないような焦った声で。
「おい…っ、」
「…うう、だって、」
「いきなり触んじゃねぇ!暴発すんだろうが!」
がなり立てられる間にも、握った手の内の熱源を離そうとは思わなかった。ただただ熱い。
「っ、触ってるだけじゃ生殺しと変わんねぇわ」
「そんな…じゃあどうしたらいいの」
私が困って助けを求めると、唸るような溜め息をひとつ。握り込んだ私の手に爆豪くんの大きな手が沿う。そうやって重ねられたままの手が、上下にゆるゆると擦るように動く。包まれた陰茎がどくどくと脈打つのが伝わってくる。爆豪くんが堪えるように短く息を吐き、眉を寄せた。
「俺が動かしたように擦れ…強く握ンなよ」
「わ、かった」
こくこくと必死に頷いて、またゆっくりと手を動かした。私が擦るたびに、爆豪くんは熱い息を吐く。気持ち良いんだろうか。もし、そうなら嬉しい。
動きを止めていた爆豪くんの指も、中をゆっくり撫でるように動いた。一番奥で指を折るように撫でつけられた時、甘い痺れるような刺激を感じてびくりと身体を震わせる。私がわけもわからず見上げると、爛々としていた爆豪くんの目が一層輝いたように感じた。
「な、なに…?」
「はっ、やっと見つけたわ」
「や、そこ、触っちゃ、んん…っ」
嬉々とした笑みに飲まれ、その一点を丹念に撫でられる。触り方は優しいのに、生み出される快感は洪水のように押し寄せてきた。
こわい。自分の身体なのに、思い通りにならない。気持ちを置いてけぼりにして、どんどん高くに打ち上げられてしまう。せめて振り落とされないようにと、腕を掴む手に力を込めた。爪を立てていたかもしれない。
出したこともないような声が口から漏れる。やめてくれるかもしれない、そう思って鳴いたのかもしれない。けれど、声を上げるにつれて爆豪くんが嬉しそうに笑っているのが見えた。逆効果だと思った時には、もう随分高いところまで追い詰められていた。淫猥な水音の発生源など確かめる余裕はなかった。
「だめ、なんか、きちゃ、う…っ」
「ぐ、うっ、」
息が止まる。思わず握りしめてしまった爆豪くんの陰茎を構う余裕などなかった。頭が真っ白になって、快感を登り切るように腰が浮く。目を閉じてしまったから、爆豪くんの顔は見えない。けれどシーツに押し付けるように身体がぴたりと重なったのは感じた。
「は、はっ……」
「クッソ…」
息の荒さとは逆に、絶頂の余韻で頭はぼんやりしていた。そろりと目を開けると爆豪くんの肩が目の前にあって、まだ荒い息を吐いていることを伝えている。上からのし掛かられているとはいえ、体重をかけないよう腕に力が入っているのが感じられて、その気遣いを労わるように背中に手を回した。
どうにか落ち着いたところで重みが退いた。汗ばんだ額を晒すように前髪を搔き上げる仕草が素敵だなぁ、なんて眺めていたけれど、その目はじとりと私を見ていた。
ふとお腹の辺りを見ると、温かな滑った液体が飛び散っている。あぁ、爆豪くんも達したのか。いつのまにか手に包んでいた陰茎は引き抜かれていた。
「はぁ…てめぇ思いっきり掴みやがって…。不能にするつもりかよ」
「爆豪くんだって、やめてくれなかったじゃん…」
「るせぇ…やめられっかよ」
悪態をつきながらも、また覆い被さって口を塞がれる。求められるままに口を開けた。二度、三度の軽いキス。身体はまだ怠い。
「…よかった?」
「…まぁまぁだわ」
「そっか」
「てめぇは、どうなんだよ」
「多分、よかったんだと思う…こんな、頭がぼんやりなっちゃうの初めてだから、わかんないけど」
「は、なんだそりゃ」
鼻で笑った彼は後処理をしようとシーツを手繰り寄せる。退こうと移動し始めた私ごと包んで、そのままバスタブへと連行された。




服を着て新しいシーツを敷いて、その頃には私も爆豪くんもだいぶ眠気が満ちてきていた。向き合って、でも離れないように腰に手を回されて。結局引っ付くように寝ることになった。
「…明日」
「ん?」
「買いもん、行くぞ」
言うだけ言って、爆豪くんはすぐに寝てしまった。静かな闇に静かな寝息だけが響く。少しだけ、と手を伸ばして頭を撫ぜても彼が起きる気配はない。私のスマホに大事に保存されている、あの寝顔と同じ顔。
ああ、帰りたくないなぁ。やっぱり爆豪くんがいないと寂しい。アメリカに来て、その気持ちが一層強くなってしまうなんて。弱気な心を無理矢理閉じ込めて目を閉じた。

(2020/9/17) <PREV▼ TOPNEXT >